核兵器と無力化装置をめぐる軍拡競争

【大澤】なるほどね。お話は理にかなっていると思います。まず核兵器を無力化する装置。それはたぶん、そういう方向の努力がこれから行なわれると思います。これはただ、きっと相当むずかしいだろうなとは思いますね。核兵器そのものよりも、核兵器を無力化する装置のほうが技術的にはむずかしいんじゃないかと思う。無力化する装置が出れば、それを上回る兵器をつくる軍拡競争みたいなことにもなりうるので、なかなか大変だと思います。

しかし、核兵器を持っている国で、しかも信用できない国はロシアだけじゃない。このことを思えば、核兵器を無力化する装置があれば、その政治的な意味は実に大きいです。

いずれにしても、この問題は、それで真の解決になるわけではないということもあります。今回の戦争はかなりプーチンが絵を描いたもので、プーチンの幻想の下に起こっているけれども、それが純粋に個人的なものかと言えば、ロシア国内でそれなりの支持を得てもいる。

ロシア国民は軍事行動を支持している

ロシア軍は士気が低い。ナチスの軍隊よりももっと士気が低い。ナチスも幻想的な枠組みの中で戦争をして、それは国民を相当とらえたけれども、プーチンは現在のロシア人をヒトラーほどにはとらえてないので、ロシア兵の士気は低いです。低いですけれども、そうは言っても、全然国民的な共感を得られていないのかと言うと、そんなことはないと思うんですね。

たとえばぼくらは、ロシアの国営放送がかなりロシアに都合のいいような映像を流している、半分ぐらいフェイクニュースみたいなことがあって、なんでちゃんとした情報が伝わらないんだみたいなことを思います。

しかし、ロシアの国民が、国営放送に受動的にだまされている、という構図は単純過ぎます。彼らは、能動的にそれを受容しているところがある。ということは、少なくともロシアにとって都合のよい国営放送のフェイクニュースを、喜んで受け入れるくらいには一般国民でさえもプーチン政権の軍事行動を支持しているのです。