「からだの毛」をどうするかは自分軸で決めていい

思春期の第二次性徴では、子どもたちは自分と他人の違いを強く意識するようになる。特に体の成長による変化は、そのスピードも程度も個人差が大きい。そういう中で、「人と違ってもいい」「体が成長して変化することを恥ずかしがらなくてもいい」と、繰り返し子どもたちに伝えることは、「性教育」のひとつの役割であり、D&I的な感性を育むことにもつながる。

思春期の体の成長の変化のひとつが、「からだの毛=体毛」だ。体毛が濃くなるのは、思春期の正常な成長の証しであるが、正しい知識がないがゆえに、あるカミソリメーカーの調査(※)では、小中学生の女子生徒の約7割、男子生徒の約5割がからだの毛が気になり、これと同等の割合で、それぞれからだの毛をそったことがあると回答している。

具体的にどの部分の「毛」が気になるのかというと、トップが「あし・太もも・すね」で、以下「うで」「わき」「かお」「むね・おなか・せなか」「性器のまわり」「おしり」と続く。調査結果からもわかるように、圧倒的に「他人の目に付く」部分の毛を気にする傾向が強く、そこには「他人と同じじゃないと恥ずかしい」「体毛がないほうがキレイに見える」「つるつるじゃないと嫌われる」「他人のムダ毛が気になる」など、周囲の目を気にするメンタルの強い影響が感じられる。

※出典:「小中学生の体毛に関する意識調査(2022年)」シック・ジャパン/9〜15歳男女

こうした周囲を気にするメンタルは、先の「介護脱毛」をしたい大人たちにも通じる。本来、脱毛をする・しないは自分主体であるはずなのに、「みんなしている」「他人に迷惑をかけたくない」「つるつるだと介護しやすい」と他人軸にすり替えているのだ。

足の毛をそる人
写真=iStock.com/PeopleImages
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「性」について、学校現場でオープンに語り合う重要性

そんな中、高橋医師は9月中旬、東京都渋谷区立加計塚小学校で小学4年生約40人を対象に、「からだの毛」に焦点を当てた特別授業に講師として登壇。これから第二次性徴を迎える子どもたちに、性の違いや命の誕生、体毛の役割について解説した。

実は体毛について学ぶ機会はほとんどないため、他人の目を気にして間違った方法や危険なやり方で自己流の処理をする場合も多いという。正しい知識を得たうえで「自分はどうしたいのか」と、自分自身の意見を持つことの大切さを伝える目的もある。

「授業では、【体毛を3割の子どもが恥ずかしいと考えている】というスライドを紹介しましたが、その時に子どもたちが“なんで?”という表情をしていたのが印象的でしたね。まだ4年生ですから、体の変化を恥ずかしく感じるのはこれから。今回のように、恥ずかしいと思う前のタイミングで、素直に正しい知識を得られることが、この先、その子自身や周りの子を助けることになると思います」(高橋医師)

高橋幸子医師
「サッコ先生」こと高橋幸子医師

また、高橋医師は、学校のような場でみんながオープンに「性」や「体毛」といった話題を口にする重要性についても指摘する。

「学校で正しい知識をきちんと伝えることで、“体毛が生えることは恥ずかしいことではない”“体毛が生えるのが早かったり、体毛が濃かったりする子がいても、それはその子の個性”と自然に受け止められるようになります。その結果、この先、性や体の変化のことで悩んだり、困ったりしても、“周囲の誰かに相談してもいいんだ”という安心感を与えることにもなります」(高橋医師)

この授業では、性の違い、個人の成長の違いなどと併せて、「体毛は決してムダ毛ではない」と学ぶことで、今後、体毛の処理をどうするかを自分軸で考えることの大切さも伝えている。

「学校現場でもD&I教育の重要性は高まっています。今回のように、専門家の言葉として、性や体と心の成長について、科学的視点でわかりやすく伝えてもらうことで、子どもたちも他者を受け入れやすくなったはず。教員としても、子どもたちと第二次性徴の体や心の変化について話しやすくなりました」(同校教員)

小学校高学年からは、修学旅行などの宿泊行事も増え、子どもたちが共に入浴する機会もある。そんなときに成長期の体の違いを自然と受け入れられるように、事前に正しい知識を得ることは、子どもたちの精神面でも大きなメリットにつながるはずだ。