介護脱毛=高齢者のエチケットという勝手な思い込み

しかしながら、介護現場のニーズというより、ブームにあおられて「介護脱毛をしておくのが、これからの高齢者のエチケット」と勝手に思い込んでしまっている人は多い。その背後には、「みんながやっているなら自分も……」という一種の同調圧力が隠れている。口では「人と違ってもいい」「自分らしさが大切」と子どもたちに言っている大人自身が、「人と同じ」であることや「他人の目」にこだわっていることを象徴している。さらに、使用機器の特性により“アンダーヘアが白髪になると脱毛できない”ことも、人生の終盤に向けて「40代、50代のうちに“介護脱毛”を」と、選択を迫られている気になるのかもしれない。

前出の伊藤さんも話すように、介護のプロたちは「介護される人が自分らしくあることを最大限尊重しよう」としてくれる。にもかかわらず、自分の意思よりも「周りはどうなのか」という他人目線に流される風潮がある。

この「脱毛」というトピックひとつ取っても、「自分らしい選択をする」「自分は自分のままでいい」「他人が自分と違っても受け入れる」という多様性を考えるきっかけといえよう。

なぜ、そこまで多様性を意識しなくてはいけないのか。それは多様性を認め、違いを尊重し認め合う「D&I」(ダイバーシティ&インクルージョン)が、社会課題というだけでなく、企業の重要な経営戦略でもあるからだ。特に、将来を担う子どもたちへのD&I教育は、最重要課題ともいえるだろう。

性教育は、多様性を認めるD&I教育の第一歩に

子ども向けD&I教育のひとつとして、今「性教育」が見直されつつある。ひと口に「性教育」といっても、その学びの範囲は多岐に渡る。今の親(中年)世代では、男女別の教室に分かれて女子だけ生理について教わるというパターンが多かった。男女の体の違いや、受精の仕組みについては学校で教わっても、どうして妊娠するのかという具体的な部分はあやふやなまま、きちんと学ぶ機会がなかったという人のほうが多いはずだ。

そういったひと昔、ふた昔前の性教育と今との違いとして、最初に挙げられるのが「性の違い」についてどう認識するか、という点だ。

「性別は身体的な違いに限らない」と語るのは、産婦人科医であり、小中高校生向けに数多くの性教育授業を行っている「サッコ先生」こと、埼玉医科大学産婦人科助教兼同大医療人育成支援センター・地域医学推進センター助教の高橋幸子医師だ。

「人には4つの性があります。生まれ持った“身体的特徴の性別”のほかに、自分自身を男性、女性と認識する“心の性別”、服装などの“表現の性別”、そして“好きになる相手の性別”がある。4つの性の存在を子ども時代から知ることは、“自分と他人が違ってもいい”と気付く、きっかけのひとつとなります」(高橋医師)

4つの性
資料提供=高橋幸子医師

体が男性であれば、その人の心や振る舞い、服装も男性であるべきで、恋愛対象も女性のはず。そう思い込むのは、幼い頃からの刷り込みであり、完全なステレオタイプのバイアスといえる。同様に、大人が何気なく口にする「男らしさ」「女らしさ」というフレーズも、多様性の観点ではNGワードとなる。