メールを送るだけで満足してしまう
そのため、いったんトンネリングに陥ると、私たちは次の行動を取りやすくなります。
また、オハイオ州立大学などの実験でも、効率性を追求してスピーディにタスクをこなすように指示されたグループは、そうでないグループに比べてタスクの処理量が約22%減っています(6)。
効率を追う人ほどトンネリングにはまって忙しさが増し、そのあとには「受信トレイを空にした」や「友人の頼みに応えた」という刹那的な自己満足だけしか残らず、本当に大事なことにいつまでも集中できません。まさに悪循環です。
時間の無駄にこだわると創造性は下がる
もうひとつ、「創造性の低下」も、効率の追求が引き起こす大きな問題点です。
効率を目指して時間を意識すればするほど、私たちは良いアイデアを思いつきにくくなり、問題解決の能力も下がる傾向があります。
ハーバード大学の心理学者テレサ・アマビールは、7つの企業から177人の従業員を集めて業務日誌を書くように指示。約9000日分のデータをもとに全員の働き方を解析し、次の事実をあきらかにしました(7)。
●仕事中に時間を強く意識した日は、そうでない日よりも創造的な思考の出現率が45%下がり、プロジェクトの成果も低くなる
●創造性の低下は2~3日後まで続いたが、ほとんどの従業員はその事実に気づいていなかった
効率を求めて時間を気にすることで、大半の人は思考の広がりがなくなり、そのせいで最終的な成果の量まで減ってしまうようです。
このような問題が起きるのは、創造的なアイデアを生むには「拡散的思考」が必要だからです。これは、頭の中にとりとめもないイメージや記憶を遊ばせるタイプの脳の使い方で、心と体がリラックス状態に入ったときに現れやすい傾向があります(8)。
このタイプの思考法が創造性に欠かせない理由は、説明するまでもないでしょう。オリジナリティのあるアイデアを思いつくには、ジェームズ・ダイソンが製材機からヒントを得て掃除機を開発したように、ジョルジュ・デ・メストラルがゴボウの実の構造を面テープに応用したように、既成の知識を新しく使う方法を編み出すか、これまでにない新鮮な組み合わせを探さねばなりません。
そのためには、頭の中を自由なイメージと知識がさまようにまかせ、意外な情報の結びつきが起きるのを待つ必要があります。シャワーを浴びるあいだや眠りに入る寸前ほど良いアイデアが浮かぶのも、リラックスモードに入った脳が拡散的思考に切り替わったからです。
対して、ひとつのことに意識を集中させ、特定の情報に脳のリソースを使う脳の使い方を「収束的思考」と呼びます。
時間を気にしながらToDoリストを処理したり、締め切りに追われてスケジュールをこなしたりと、目の前のタスクに意識を向け続けねばならない場面では、あなたの脳は収束的思考に切り替わり、集中力を高める方向に働き出すわけです。