ToDoリストやタイムログといった「時間術」には、どれだけの効果があるのか。科学ジャーナリストの鈴木祐さんは「そうしたテクニックは仕事の生産性を上げるどころか、むしろ下げてしまうというデータもある。安易に活用しないほうがいい」という――。

※本稿は、鈴木祐『YOUR TIME ユア・タイム 4063の科学データで導き出した、あなたの人生を変える最後の時間術』(河出書房新社)の一部を再編集したものです。

砂浜に置かれた懐中時計
写真=iStock.com/komta
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時間管理のテクニックの本当の効果

浜の真砂は尽きるとも、世に時間術の種は尽きまじ。

カレンダーへのスケジューリング、ToDoリスト、メールタイムの設定、作業時間の計測など、世の中には時間管理のテクニックが大量に存在し、それぞれが「この手法で時間を有効に使うことができる」と主張しあっています。しかし、実はこれらの手法にはどれもたいした根拠がなく、それどころか仕事のパフォーマンス改善に効かないという報告もかなり多いのです。

にわかに信じがたい話かもしれませんが、時間術の効果について調べた複数の研究が、それぞれのテクニックと仕事のパフォーマンスのあいだに弱い相関しか見出していないのはまぎれもない事実です。

カナダの名門大学が行った実験

コンコルディア大学などが2021年に行った調査を見てみましょう。

研究チームは、1980年代から2019年までに発表された時間術の研究から158本を選び、約5万3000人分のデータでメタ分析を行いました(1)

メタ分析とは、過去に行われた複数の研究データをまとめて大きな結論を出す手法のことです。大量のデータを使うぶんだけ精度は高くなり、単独の研究を参照するよりも確からしい結論を導き出すことができます。その意味で、データの信頼度はかなり高いと言っていいでしょう。

分析にあたり、チームは時間術の内容を3つの種類に分けました。

●構造化:「どの活動をどの時間に行うか?」をはっきりさせるタイプの時間術を意味します。スケジュール帳、リマインダー、ToDoリストなどが代表例です。

●保護化:外部の障害やトラブルから時間を守ることに特化した時間術です。時間のかかる依頼を断ったり、早起きで仕事をしたり、仕事中にSNSへのアクセスを遮断したりといった手法があります。

●適応化:同僚の依頼や急な会議などの問題を事前に想定し、あらかじめ対策を立てておく時間術です。「急な会議が入ったら書類作りは来週に回す」「急な仕事を頼まれたら経費精算は同僚に頼む」のような行動プランを作る方法が一般的です。「予備日を作っておく」なども、この手法にふくまれます。