JRの「完全民営化」が赤字ローカル線の廃止をもたらす

国鉄分割民営化で生まれたJR各社のうち、JR東日本、JR東海、JR西日本、JR九州の4社は、国の援助を受けない「完全民営化」を果たしている。これら4社の株主には金融機関や外国法人が名を連ねており、国や公共団体による株式の保有はほぼゼロである。

そうした状況で、完全民営化したJR各社が、収益率の悪い事業を継続することは、株主の利益に反する。そのため、JRが赤字ローカル線の廃止に動くのは極めて自然である。

一方、まだ完全民営化を果たしていないJR貨物、JR北海道、JR四国はどうだろうか。

JR貨物は、低廉ていれんな線路使用料の計算方法であるアボイダブルコストルールが適用されている。JR北海道とJR四国には、赤字補塡のために経営安定基金が拠出されている。しかし、赤字を埋める役割が果たせておらず、各社の経営状況は厳しくなる一方である。

鉄道の乗車機会を減少させた「自動車の普及」

次に、自家用車の激増がある。

国鉄分割民営化当時にくらべ、乗用車の保有台数は全国平均で2倍以上、地方では約2.5倍に増加している。

地方では一家に1台ではなく、1人1台が当たり前の時代になった。その結果、鉄道をはじめとする公共交通の必要性が大きく下がったわけだ。

クルマの普及は、まちづくりにも大きな影響を及ぼした。クルマ移動が前提の社会となり、広大な駐車場を整備しやすい郊外が発展。巨大なショッピングモールやロードサイド店舗が激増した。

その一方、駅前は寂れ、いわゆる“シャッター通り”と呼ばれる商店街が生み出されることとなった。その結果、駅の魅力が失われ、鉄道の乗車機会がますます減少してしまったのだ。

駅前は寂れ、いわゆる“シャッター通り”に
写真=iStock.com/Yue_
駅前は寂れ、いわゆる“シャッター通り”に(※写真はイメージです)

そして、高速道路網の拡大により、クルマの利便性にさらに拍車がかかった。高速道路の総延長距離は国鉄分割民営化時の3910kmから9050kmと倍以上になっており、クルマの普及を大きく後押しした。

高速道路網の拡大は高速バスの運行にも大きな影響を及ぼした。国鉄分割民営化前の1985(昭和60)年度から2018(平成30)年度の間に、高速バスの運行系統数は249本から5132本と、約21倍にまでふくれ上がった。