「仕事の成果=自己責任」という論調は破綻している
――沢渡さんはこのほど、『仕事は職場が9割 働くことがラクになる20のヒント』(扶桑社)を上梓されました。なぜ「職場が9割」なのでしょう?
【沢渡】まずは、日本が好景気に沸いた時代を生きた団塊・バブル世代を見回してください。仕事ができる人、できない人、さまざまかと思いますが、「自分たちより何倍も能力が高い」ほどではないはずです。この時点で、安易に仕事の成果を自己責任に結びつける論調には破綻があります。環境や時代、人間関係、ビジネススタイルなど、自分以外の要素が非常に重要です。
また、書店にはさまざまなビジネススキルや思考法を紹介するビジネス書がたくさんあります。たしかに、個人的にそうしたスキルを身に付けることは生産性の向上に役立ちますが、どんな高性能なエンジンを積んだスーパーカーも燃料がなければ走らないように、モチベーションや前向きに仕事に取り組める環境があってこそ、その効果は発揮されます。
だからこそ、「仕事は職場が9割」です。
「上司は絶対に正しい」「数字が出ないのはお前のせい」といった思い込みやプレッシャーで窒息するような職場で、「モチベーションを高めろ」「生産性を上げろ」と言われても無理があります。逆に、今は成果が出ない人も、職場という環境が変われば、モチベーションが上がり、潜在能力が開花する可能性があります。自分で自分を諦めるのは、非常にもったいない。
みんな「上司と部下」を上下関係だと勘違いしている
――なるほど。やる気を失わせる職場のストレスとしてもっとも大きなものは「人間関係」でしょうか。
【沢渡】私は職場の人間関係には、ある悪しき“思い込み”が蔓延していると感じています。それは、上司と部下に「上下関係」があるとの思い込みです。
「上司と部下」とは、極めて特殊な人間関係です。それは、「相手を選べない」ことに起因します。私たちは、誰が上司になるのかを選択できません。例えば、学生時代は学校の中で誰と親しくするか、どんな部活に入るかなどは自分で決められるし、大学生ならどの教授の授業を受けるか選べますが、職場ではよく分からない誰かが勝手に上司になります。当然、ソリが合わなかったり、価値観が異なったりする上司もいます。
ただ、そうであっても本来は「上司は部下を指導、管理する」「部下は上司の下で仕事に取り組む」との役割がそれぞれ会社から与えられているだけで、同じ働き手同士、フラットな関係に過ぎません。
にもかかわらず、「上司と部下」を「師匠と弟子」のような上下関係と勘違いする“思い込み”が蔓延している。これは、とても不健全な状態です。