師匠と弟子はメリットとデメリットの天秤が整っているが…

――雇用主でもない誰かが勝手に「自分に従え」と言ってくる。冷静に考えると、おかしな状況です。

【沢渡】師匠が弟子に対して優位にある「師匠と弟子」の関係と「上司と部下」の関係では、決定的に異なる点があります。それは、「弟子は師匠を選べる」点です。まず最初に「この人の弟子になりたい」との尊敬の念や主体的な意思があって、はじめて師匠の門を叩くわけです。勝手に誰かが自分の師匠にはなりません。

そして、自分が選んだ師匠の下で厳しい修業に耐えてスキルを磨けば、「○○さんの弟子」として業界で一目置かれたり、のれん分けという形でブランドを手にしたりできます。上下関係はありますが、その分、キャリアにおけるメリットとデメリットの天秤が整っています。

一方、上司はまったく異なります。自分で選んだわけでもなく、尊敬できない人が上司になる可能性もあり、パワハラや理不尽に耐えても、何のキャリアにもつながらないリスクがあります。後で、「あの時、こうしておけばよかった」と後悔しても、上司が責任を取ってはくれません。特に変化が激しい今の時代は上司が正解を持っているとは限りませんから、思考停止で「上司は正しい」と従っていると、ただただ自分のキャリアが無駄になる危険性すらあります。

対価が約束されない時代の「人間関係の軸」とは

――なぜ、上司が師匠であるかのような勘違いが蔓延してしまったのでしょう?

【沢渡】30年前の景気が良かった時代は、年功序列、終身雇用の下で、上司のマネをしていれば、ある程度、似たようなキャリアを描けたからです。部下も、まるで弟子のごとく上司に付き従っていれば、ポジションを引き上げてもらえる可能性がありました。職場の中で、メリットとデメリットの天秤が整っていたわけです。

今、「自分たちの時代は上司の理不尽に耐えて頑張るのが当然だった」などと言っている年配者がいるとすれば、その人は昇進や退職金など、私たちよりも多くの対価を、その言葉の裏で手にしているはずです。

――今は対価も約束されていないのに、上下関係だけが残ってしまっている……。それはストレスがたまりますね。

【沢渡】先進的な職場では、「上司と部下は上下関係ではなくフラットなチームメイト」との意識や組織変革が進んでいます。ただ、まだまだ上下関係が根強い職場もあるでしょう。だからこそ、私たちは人間関係の軸を「尊敬」に移していったほうがいい。