女性の不満が出るわ出るわ…
たとえば、中高年の性生活の調査をするとよく耳にするのが次のような相談です。
「日常生活で会話もほとんどなく、目を合わせない日さえある。手をつなぐことやキスも当然ありません。それなのに、夜になるとベッドにゴソゴソと入ってくる……」といった、女性たちの不満です。
付き合いが長い関係になるほど、こうしたケースは多くなっていきます。
「夫婦なんだから、いまさらいちいち口説くなんてめんどう」「夫の欲求に応じるのは妻として当然の勤め」と考える人も少なくありません。
しかし、そうした認識を持ったままセックスを行うと、何が起こるのか……? 僕が所属する日本性科学会のセックスカウンセラーが相談を受けた、夫婦の例を見ていきましょう。
仲良し夫婦が一夜にしてセックスレスに
そのご夫婦は、数年前まで仲睦まじく、何の問題もなかったといいます。ところがあるときから突然、妻が夫からのセックスの求めにまったく応じられなくなった、というのです。
夫の側は、「なぜ妻が自分を拒否するようになったのか、まったく心当たりがない」──というご相談でした。
そこで、カウンセラーがその女性へ丁寧に聞き取りを行ったところ、数年前にあった、たった一度のセックスがきっかけであることがわかったのです。
ある日、女性が熱を出して寝込んでいたところ、夫がベッドに入ってきて、「ちょっと体だけ貸して」と一方的に挿入してきたのだそうです。そのとき、女性は熱のために抵抗することもできず、あきらめて、されるがままにしたといいます。
この心無いセックスで女性は深く傷ついてしまい、それ以来、夫に対して心も体も閉ざしてしまった……ということでした。
とっさの場面で表れる深層意識
この話を聞くと、多くの人はこの夫に対して「さぞかしひどい人格なのだろう」と思うことでしょう。しかし、実際にはその男性は、見た目も立ち居振る舞いもごく普通で、問題なく会社勤めをしている世間的に見れば“常識人”なのです。
本人も、そのセックスで妻を傷つけようという意図はありませんでした。それどころか、傷つけていたことに気がつくこともなかったのです。
「夫婦ですから、セックスはいつもしていること。何の問題があったのかわかりません」というのが、夫の言い分でした。