その中でも日本社会において最も大きな反対が発生し問題となったのが、2015年の平和安全法制、いわゆる安全保障法制である。

これは、世界の潮流である集団安全保障の考え方を日本に定着させ、現代において自国だけではその安全を守れなくなった国際環境に合わせて、日本において集団的自衛権に基づく政策を確立するためのものであった。

もはや一国だけで自国を防衛するのは困難

2022年、ロシアによる一方的なウクライナ侵攻、いわゆるロシア・ウクライナ戦争に直面した世界において、大国からの一方的な暴力に対しては、自ら一国だけで自国を防衛することが困難であることを目の当たりにした。

福田充『政治と暴力 安倍晋三銃撃事件とテロリズム』(PHP新書)
福田充『政治と暴力 安倍晋三銃撃事件とテロリズム』(PHP新書)

ウクライナがすでにNATO(北大西洋条約機構)に加盟していれば、また民主主義・自由主義陣営の国々と同盟関係にあれば、集団的自衛権の発動により、ウクライナへの侵略は防がれたかもしれない。

その同盟関係による集団的安全保障が確立できていなかったために、ウクライナの国民は、そしてゼレンスキー大統領はNATO加盟の申請を決断したのであった。それに対して、ロシアのプーチン大統領は、そのウクライナのNATO加盟を阻止するために一方的な軍事侵攻に踏み切った。

この問題は、ロシアとウクライナの二国間だけの問題にとどまらない。ウクライナが標榜する民主主義・自由主義陣営の価値と、ロシアを代表とする権威主義的陣営の価値のイデオロギーの対立である。また東ヨーロッパにおける覇権国家であるロシアから距離を置き、その独立度をさらに高めようとするウクライナの行動は民族自決の問題でもある。

こうした対立の構造は、世界の様々な地域に存在する。中国と台湾の関係とも相似的であり、台湾有事のリスクが顕在化したこともそれと無関係ではない。安全保障法制の意義は、こうした現代の国際安全保障の環境において再評価されることになるだろう。

こうした現代の国際環境に対して国際協調をするための法制度を整備したというのが、国際的観点から見て安倍元首相が評価される点であるといえる。

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