技術が広がればネットワークが劇的に変わる

――量子技術は、私たちの生活をどう変えるのでしょうか。

また抽象的な話になってしまいますが、ベストセラーになったSF小説『三体』の世界を思い浮かべてもらえたらと思います。三体星人は量子技術で脳がつながっていて、言葉というツールでコミュニケーションをとる地球人を遅れた生命体と見ています。

三体星人のように脳やネットワークが量子技術でそのままつながれば、世界は大きく変わります。嘘がつけないという弱点はありますが、コミュニケーションのありかただけでなく、金融や製造、交通、物流などすべての現場におけるネットワークが劇的に変わるでしょう。

東芝島田社長
撮影=遠藤素子

データビジネスと量子技術で東芝を蘇らせる

――そうした取り組みは、東芝の経営理念とつながるのでしょうか。

経営理念である「人と、地球の、明日のために。」は、東芝グループの存在意義そのものです。入社してこの言葉に触れたときは、何て美しい言葉だろうと思いました。皆のために何かいいことをするんだという意思が伝わると同時に、何をするのかについてはさまざまなイメージが広がりますよね。

ドイツの作家、シーラッハは形容詞をできるだけ使わず、名詞とほんの少しの動詞だけで文章を構成していました。「小さな」「かわいい」といった形容詞を使うと、物事がある特定のイメージに矮小わいしょう化されてしまうからだそうです。東芝の理念も同じで、形容詞を使わない、受け手がさまざまにイメージを膨らませられる言葉でできています。

東芝は何でもつくれる会社です。その力を「人と、地球の、明日のために」生かすんだということですね。長期ビジョンでは、僕たちは今後データビジネスと量子技術を事業の柱にしていくと発表しました。これらは自社の進化と同時に、誰もがつながることのできるデータ社会の構築や、地球の持続可能性を高めるカーボンニュートラルの実現にも寄与するものと思っています。

――3年後に創立150周年を迎えます。

自分としては、ビジョンをつくる力はあると自負しています。このビジョンを実行力をもって、皆さんの期待値を超えてやり切っていきます。そのためには決してぶれないことと、何でもやる覚悟を持ち続けることが大事です。「ビジョンはぶらさず、手段は選ばず」の姿勢で、東芝を大きく進化させていきたいと思います。

(構成=辻村洋子)
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