認知症の母が教えてくれた「真心で相手に向き合う意味」

「僕のために検査を受けてください」と頼むこと。

残された手段はもうこれしかない。

そう考えた僕は母に言った。

「母さん、僕は母さんが心配で心配でたまらない。母さんには長生きしてほしいし、もっと安心して生活を送ってもらいたいと思ってる。

でも、このままじゃいつまた事故が起きるかわからない。母さんに危険が及ばないとも限らない。そんなことにならないためにも、検査を受けてほしい。僕のために、検査を受けてほしいんだ」

この言葉を何度か繰り返すうち、母は次第に態度を変えていった。

初めのうちは話をされるのも嫌、という感じだったが、やがて僕の話に耳を傾け、渋々ながらも、検査を最後までやり通してくれた。

僕の言葉によって母が変わってくれたというより、説得を試みる中で僕自身が変わり、そのことが母の心に響いたのだろう。

医師としての立場を捨て、真心で相手に向き合う。

真心で向き合うことを母が教えてくれた
写真=iStock.com/shapecharge
真心で向き合うことを母が教えてくれた

そうしたかけがえのない経験を、僕は認知症の母によってさせてもらったのである。