SNSが誤情報を広める「抜け穴」になっている
ロシア政府アカウントの協調した拡散戦略によって、侵攻を正当化するツイートがユーザーに推奨されるなどの影響はあったのか。ツイッター社は取材に「個々のデータを公開していないためお答えすることができません」と回答した。
ロシア政府はツイッターで積極的にプロパガンダを発信する一方、自国民に対してはツイッターへのアクセスを制限するなど情報統制を強めている。ツイッター社はこうした「深刻な情報の不均衡」への懸念を強め、ユーザーのタイムラインなどでロシア政府アカウントをおすすめとして表示しない方針を2022年4月5日に発表した。この措置によって、ロシア政府のツイートを目にする機会は減少すると説明している。
また、ツイッター社はロシアのウクライナ侵攻以降、「虚偽」や「誤解を招く」5万件以上の投稿について削除や注意喚起のラベル付けの措置をとったという。
だが、グラハムさんは、ロシア政府アカウントが誤情報を広める「抜け穴」状態は続いていると指摘。「侵略を正当化する多くのツイートは、ある意味で暴力をあおっているとも言える。ツイッター社はロシア政府のアカウントが発信するツイートについて、特別なリソースを割いて事実確認し、適切に処理する対応を取るべきだ」と主張する。
情報流通の自由に「ただ乗り」するロシア
ソーシャルメディアに詳しい桜美林大の平和博教授は、政府アカウントへの対応について「国家を超えた力を持つという懸念もある(SNSの)プラットフォーム企業が、紛争にからんでどこまで介入できるのか、すべきなのかという議論は十分になされていない」と指摘する。
SNS時代の情報戦にあって、言論の自由と、自由さゆえの危険性とのバランスをどう取っていくか――。平さんは語る。
「ロシアはデジタル版『鉄のカーテン』をおろして国内で言論を弾圧する一方、国外に対しては、自由な情報の流通という民主主義国家の価値に“ただ乗り”し、偽情報を使った情報戦で混乱を引き起こしている。一方で、このような強権国家に対処するために行き過ぎた規制をとれば、民主主義社会の価値観を損ねかねない。私たちは『寛容のパラドックス(逆説)』の問題にリアルに直面している」