「物価が安い」ことは「賃金が安い」ことと関係している
2022年2月時点での値を実際に計算してみると、つぎのようになる。
日本は390.2円だが、1位のスイスは804円であり、猛烈に高い。3位のアメリカは669.3円で、かなり高い。韓国の439.7円も、日本よりずいぶん高いと感じる。そして、中国が441.7円だ。21年6月には日本より安かったのだが、ついに中国の価格が日本より高くなってしまった。いまや、中国人や韓国人が日本に来ると、「物価が安い国だ」と感じることになる。
以上で述べたことに対して、「物価が安いのは、むしろ良いことではないか」という意見があるかもしれない。「外国に旅行すれば確かに貧しいと感じるかもしれないが、日本にいる限り問題はないだろう」という考えだ。しかし、そうではない。ビッグマックの価格を問題としているのは、それがその国の賃金と関連しているからだ。
ビッグマックが安い国は、賃金も安い場合が多いのである。だから、以上で述べたのは、「日本人の安い賃金では、外国の高いものを買えない」ということなのだ。
ビッグマックの場合には、日本人はわざわざ外国の高いビッグマックを買う必要はない。日本で売られている安いビッグマックを買えばよい。しかし、日本で生産されていないために外国から輸入しなければならないものも多い。こうしたものについては、高いものを買わなくてはならない。
日本円でのiPhoneの価格はこの10年で約3倍に上昇している
それを印象的な形で示しているのが、iPhoneだ。
2021年9月に発表されたiPhone13には、約19万円のものもある。ずいぶん高いと感じる。原油も同じだ。日本は輸入せざるを得ないから、iPhoneと同じことで、高い価格であっても買わなければならない。最近のようにドル建ての原油価格が上昇すると、その影響を、アメリカ人よりも韓国人よりも、そして中国人よりも、日本人が数段強く受けることになる。
われわれは、いまiPhoneを「ずいぶん高い」と感じる。しかし、こう感じるのは、昔からのことではない。しばらく前まで、さほど高いとは感じなかった。実際、日本円でのiPhoneの価格は、この10年で約3倍に上昇しているのである。iPhoneだけでない。10年前には、日本人は、一般に外国のものを安いと感じていた。
金融緩和による円安の影響で、日本人の購買力は低下してしまった
もう一度ビッグマックに戻って、2012年2月の数字を見ると、つぎのとおりだ。日本のビッグマック指数はマイナス0.9だった。円表示のビッグマックの価格で見ると、日本が320.2円だったのに対して、アメリカが323.1円だった。このように、ほとんど差がなかった。
韓国は245.9円で、日本よりだいぶ安かった。中国は187.7円と、日本の6割にもならなかった。この頃であれば、日本人は、韓国に旅行して買い物を楽しむことができただろう。中国に行けば、もっと安いと感じたはずだ。しかし、いまや、それはできなくなってしまった。
さきほど、賃金や一人あたりGDPで日本の地位が下がったのはアベノミクスの期間だったと述べた。ここで述べた変化も、アベノミクスの期間に起きた。日本で賃金が上がらず、外国では上がったので、本来であれば為替レートが円高になって、これを調整すべきだった。ところが、異次元金融緩和が導入されて円安が進んだため、日本人の購買力が低下してしまったのである。