意図せず「教養は役に立つ」というメッセージを発してしまっている
このような話が出てくるのは結局のところ「教養は役に立つ」という言説にフォーカスした方が読者への伝達スピードが上がるからに他ならない。また、では何に役に立つかを要約するとイノベーションと近い概念になるのも「ビジネスシーン、つまりはお金儲けにつながる教養」というファスト教養の大枠に収まっている(「スティーブ・ジョブズ」が「イノベーション」の枕詞であることに異論を挟む向きは少ないだろう)。
池上自身、教養を身につければビジネスシーンで役立つ人材になれるなどという短絡的な考えは当然持っていないはずである。にもかかわらず、いざ書籍という形にまとまった時に、どうしてもそんなメッセージが前景化してしまう。
昨今の社会には、教養を「役に立つかどうかではなく長いスパンで考えた時に人生を豊かにするもの」というのんびりした場所から追い出そうとする磁場が確実に形成されている。