給与削減の黒歴史から「希望」を見いだす方法
残業が減った背景には2019年4月から施行された働き方改革関連法の「時間外労働の罰則付き上限規制」も影響している。原則として上限は月45時間、年間360時間となり、労使協定を締結すれば年間720時間以内まで可能となる。この規制は純粋に長時間労働を抑制するのが目的であるが、企業にとっては残業代=人件費の削減にもつながる。
残業代が減ったもう1つの原因はコロナ禍で拡大した在宅勤務時の残業規制である。週3日以上の在宅勤務を推奨している広告関連会社の人事部長はこう語る。
「出社している場合はPCのログイン・ログオフの時間をベースに残業代を支給している。しかし在宅勤務時の残業は、残業した理由を記入し、それを上司が承認しないと認めないことにしている。出社時と違い、就業時間中でも仕事をしているかわからないし、ましてや本当に残業しているかわからないので厳格に運用している」
その結果、在宅勤務時の残業時間は大きく減少したという。しかし残業規制を強化すると、上司はどうしても「残業時間抑制」を求める会社側に配慮し、部下も実際に残業しても上司に忖度して申請しない可能性もある。似たような状況を生じやすいのが、近年増加している「固定残業代制」だ。
基本給とは別に、一定時間の固定残業代を支給する企業が増加傾向にある。固定残業代はたとえ残業時間がゼロでも支給される。つまり固定残業代の労働時間数より労働時間が少ないと、その分、得をすることになる。もちろん想定残業時間を超えて残業した場合は超過分の残業代は支払われることになっている。
労務行政研究所の「人事労務諸制度の実施状況調査」(2022年2~5月)によると、「定額残業手当」を支給している企業は2010年には7.7%にすぎなかったが、2013年に10.7%、2018年に12.5%と徐々に増加し、22年には23.3%に上昇している。また、固定残業代の時間数の設定では、最も多いのは30時間の37.7%となっている。
ただし、固定残業代の時間数が30時間に設定されていれば、それ以上の残業を会社が望んでいないと忖度し、30時間を超過しても社員が申告しない可能性もある。固定残業代の設定時間では10時間が6.6%、15時間が9.8%。20時間以内の企業が計31.2%も存在する。
かくして残業代も削られていく。長年にわたる賃金制度の変革による給与削減の歴史を振り返ると、給与が上がる可能性は見つけづらい。
残る手段は仕事を人一倍がんばり、目に見える成果を上げ続けて基本給を上げる。あるいは副業によって生活費を補塡する。いずれにしても厳しい時代が待ち受けている。