不動産業界に走った激震も記憶に新しい。不動産開発大手の恒大集団(エバーグランデ)は2020年9月、経営危機に陥った。負債比率など政府が突如導入した3つの基準、いわゆる「3つのレッドライン」が障害となり、資金繰りが困難となったためだ。混乱は他の大手デベロッパーにも波及している。
大西洋協議会は、すでに危うい不動産業界に対し、拙速な負債削減を強制したことは失策だったとみる。「巨大かつ負債を抱えた不動産業界の負債軽減をもくろんだ大規模な試み」が、結果として「経済を揺るがす恐れ」を生んだとの分析だ。
中国不動産業界では、物件の完成前から購入者にローンを支払わせる方式が横行するなど、すでに資金繰りの危うい状況が続いていた。3つのレッドラインの導入後、資金繰りに行き詰まった開発業社らは、各地の建設工事を中断しはじめた。
結果、入居前からすでにローンを支払ってきた購入者たちの怒りがピークに達している。ニューヨーク・タイムズ紙は8月、購入者らが住宅ローンの支払いをボイコットしていると報じている。
記事は「数十年にわたり、不動産の購入は中国において安全な投資だと考えられてきた。いまや不動産は、同国の中産階級の富の礎となるどころか、不満と怒りの源となった」と述べ、人々の不安と憤りを強調する内容だ。
「異例の3期目続投」を狙う習氏の大誤算
不平等の解消を掲げた共同富裕だが、いまやその実現が危ぶまれている。
中国政府は現状、各産業への圧力を強める政策に終始している。好調なIT大手に制裁を課し、伸びていた家庭教師事業を全面的に禁止するなど、花開く産業とその創業者をねらい撃ちにした懲罰的な規制が目立つ。
共同富裕の理想である富の再分配にはほど遠く、「出る杭は打つ」方式で経済全体のパイを縮小させているのみだ。ゼロコロナ政策ですでに弱体化しきっている市場に対し、さらなる負荷をかける愚策で国民の財を危険にさらした。果ては海外投資家らまでをも困惑させている。
3期目をねらう習近平としては、先富論からの大々的な転換を誇示することで、経済格差に苦しめられてきた国民の心をつかみたい意向だったのだろう。しかしその実、実効的な成果を生み出せず、ITや不動産など基幹産業に危機をもたらしたのみだ。
市場を荒らすだけ荒らし窮地に陥った習近平は、先富論への後戻りさえ仄めかす状況となった。10月には党大会が控えるが、共同富裕という失策が再任への好材料となることはないだろう。仮に続投するにせよ、歪んだ経済をどう立て直すのか。国内外からの圧力は高まる一方だ。