習氏の「共同富裕」が看板倒れになっている
異例の3期目入りをねらう、中国の習近平国家主席。10月16日には、その可否を正式に判断する党大会が迫る。続投の線が濃厚との見方もあるが、肝いりで推進してきた「共同富裕」の失策は一定の冷や水となりそうだ。
今年1月、その苦境を象徴するかのような一幕があった。習近平がめずらしく自らの政策を弁明したのだ。世界経済フォーラムが主催するダボス会議にリモート出演した習近平は、貧富の差の解消をうたう「共同富裕」政策の停滞について釈明する形となった。
習近平は「私たちの望む共同富裕は、平等主義ではない」と述べ、経済格差に改善の兆候がみられない現状について弁明した。「まずはパイを大きくし、それを公的な計画を通じて適切に分配してゆく」と述べ、格差解消から経済成長重視への転換を仄めかした。
これは実質的に、経済格差の拡大を招いたとして批判を浴びた旧政策への後戻りとなる。英BBCは、「中国の国家主席である習近平は、景気への強い弾圧とみられている『共同富裕』政策について、世界的な場でめずらしく弁明を行った」と報じ、政策の後退を指摘している。
政権は経済格差の解消に躍起だ。BBCは、習近平が「(格差を)放置すれば中国共産党による統制を脅かしかねない」との認識を示したと伝えている。不平等が危機的なレベルに達していると理解しながらも、何ら有効な施策を示せない中国共産党指導部の焦りが透けてみえるかのようだ。
「先富論」で成長を優先してきた過去
中国国民は長年、富める者とそうでない者の二極化に不満を募らせてきた。共同富裕は、こうした国民感情に応える政策となるはずだった。
世界第2の経済大国にまで駆け上がった中国だが、国民全員が豊かになったわけではない。むしろ経済格差は拡大している。その元凶となったのが、過去に実施された「先富論」の政策だ。
1980年代半ば、中国共産党の鄧小平は、先に豊かになれる者から豊かになるべきだとする基本原則「先富論」を唱えた。大胆な民営化施策と市場原理主義の導入を持ち込んだこの方針は、2000年代までの急速な経済成長の原動力となり、一定の成果を生んだ。