ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、「しかし、テック産業の締め付けはある程度続いているものの、中国は停滞する成長率の下支えを優先するようになっており、これ以外の政策は立ち消えとなった」と指摘している。格差社会の解消がまた一歩遠のいた。

「最も成功した企業」を弾圧、経済は失速

共同富裕の具体的政策のうち、実際に広く実行された数少ない例のひとつに、IT産業への弾圧がある。だが、IT企業経営者らの収入に歯止めをかけるねらいとは裏腹に、中国経済を混乱させただけに終わったようだ。

テック産業への締め付けは、とくにオンライン販売のアリババとソーシャルメディア運営のテンセントに打撃を与えた。90年代後半に設立され、好況を支えた両社を、米フォーチュン誌は「最も早く、最も成功を収めたプラットフォーム企業のひとつ」であったと評価している。

しかし、習近平がプラットフォーム企業をねらい撃ちにした「継続的で組織的な規制の暴力」を浴びせたことで、好調だった中国プラットフォーム企業らの「パーティーは終わりを迎えた」と同誌は述べる。

習近平政権は2020年、アリババのグループ企業のIPOを唐突に中止させた。翌年には独占禁止法違反を名目として、アリババとテンセントに数十億ドル規模の罰金を課している。これらに加え、ゼロコロナ政策による経済の混乱が両社を苦しめた。

アリババのビル
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共産党を守るため、景気が犠牲に

中国が駆け抜けてきた高度経済成長期の終わりがささやかれる現在、稼ぎ頭を叩く政策は悪手だ。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、「共同富裕が立ち消えになりつつある理由のひとつは、習氏が中国経済を堅調に保つべき時であるにもかかわらず、導入された政策が企業経営者らを恐怖させ、成長を鈍化させているからだ」と指摘する。

共同富裕全般についても同誌は、各業界を締め付けているだけであり、イノベーション加速のための施策がないとの厳しい見解を示している。

一方、混乱を招いた習政権は涼しい顔だ。シンガポール経営大学のヘンリー・ガオ准教授はフォーチュン誌に対し、中国共産党指導部はこうしたテック企業への打撃を意に介さないだろうと語っている。「ビッグテックの終焉を……(中国政府は)おそらくいい厄介払いだと考えるでしょう」

中国共産党は、国内で育ちゆく巨大企業を祝福するどころか、党の指導力を超え得る脅威とみなしてきた。共同富裕を口実にこうした成功企業を締め付け、巨大プラットフォームの活力を奪う目算だ。

自転車操業だった不動産業界にとどめ

厳しい規制は、中国大企業の株価急落を招いた。BBCは、「しかしその実施に伴い、中国政府が新たな規制を導入した結果、中国最大の部類に入る複数の企業の価値から数十億ドルが消え去った。海外投資家らを動揺させている」と報じている。