アメリカでもフランスでもロシアの偽情報が拡散
【池上】ロシアが発生源となって、各地の極右派と共鳴しているというケースもあります。2016年の米大統領選の際に、ヒラリー・クリントンに関する偽情報がウェブ上に溢れましたが、これはトランプを勝たせたいロシアが、GRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)というロシア軍の情報部を使って組織的に働きかけたものであることが分かっています。
また、2017年のフランス大統領選挙では、極右政党のマリーヌ・ル・ペンを当選させるべく、ロシアが偽情報を拡散していたことが明らかになっています。
【増田】2017年にフランス大統領選の取材に行きましたが、確かにマクロン陣営は情報戦、フェイクニュース対策に手を焼いていました。欧州にはグローバル化の波から取り残された人たちの不満があることは事実です。
さらに今は世界的に食品やエネルギーの価格をはじめとして物価が急激に上がり、生活に打撃を与えています。そうした人たちの一部が、「なぜ自分たちも大変なのに、移民や難民を助けなければならないんだ」と思うようになり、排外主義的な考えを持つようになって、極右化していくのです。
ロシア発のコロナワクチンの偽情報も
【池上】ロシア発の偽情報はそれだけではありません。例えば新型コロナのワクチンについてもSNS上でデマが拡散されました。
アメリカのファイザー社製ワクチンやモデルナ社製ワクチンなど、ウイルスの遺伝情報の一部を体内に投与するメッセンジャーRNA(mRNA)のワクチンが出てきたときに、アメリカでは「mRNAワクチンを接種すると不妊になる」「2年後に死ぬ」などという情報が一斉に拡散されました。しかしアカウントを調べてみると、アメリカ人を装った、ロシアGRUのアカウントだったことが判明したんです。
ロシアは新型コロナの感染拡大後、急ピッチでスプートニクⅤなど複数のワクチンを開発して承認し、世界に売り込んできました。スプートニクⅤはmRNAワクチンではなく、ウイルスベクターワクチンといって、病原体成分の遺伝情報をウイルスに運んでもらうタイプのものでしたから、mRNAワクチンの妨害をしたわけですね。
【増田】社会に存在するわずかな亀裂や不安に、偽情報を送り込んで、ネガティブな感情をあおっていくわけですね。
メルケル前首相は難民受け入れの覚悟を決めていて、極右などの反発があってもできるだけ難民が快適な生活を送れるよう、住む場所を用意し、ドイツ語やドイツ文化を学ぶためのプログラムや就業支援など幅広いサポートを行いました。また移民が難民を支えるなど、市民による取り組みも実施されていました。
偽情報に惑わされず、適切な支援をしていくことが求められています。