そこで『ストーリーとしての競争戦略』では、合理性の時間差攻撃を使わずとも、「バカ」が「なる」に転化する論理を提示することを狙いとした。詳細についてはぜひ拙書を読んでいただきたいが、僕バージョンの「バカなる」は、部分と全体の合理性のギャップをつく、というロジックになっている。いわば「合理性の空間差攻撃」である。

いずれにせよ、『ストーリーとしての競争戦略』の核となる概念の着想は、吉原先生がずいぶん昔に(おそらく何の気なしに出した)『バカなる』に多くを負っている。持続的な競争優位の根幹部分を支える論理として、僕は今のところ依然として「バカなる」が最強だと考えている。

初版が1988年なので、事例集としては古い。業界事情も企業をとりまく環境も30年以上の年月を経てわりと変わっている(もちろん変わらないことも多いが)。だから文字面を追うのでなく、事例をもう一段抽象化して、あなたバージョンのオリジナルな「バカなるロジック」を考えてみてほしい。先見の明(時間差攻撃)や僕のバージョン(空間差攻撃)以外にも、「バカ」が「なる」に転化する論理やメカニズムにはまだいくつか面白いのがありそうだ。

『ストーリーとしての競争戦略』を出した後、吉原先生からお手紙をいただいた。そこには「この本でいいところがあるとしたら、それは自分でよくわかっていることしか書いていないということだ。中途半端にしか理解していないことは書いていない。だからわかりやすい」「あなたのしつこい性格とその重要性がよくわかった」というような感想が記されていた。僕にとっていちばんうれしい手紙であったことは言うまでもない。

赤坂の「オーバカナル」にて(←これはホント)

『「バカな」と「なるほど」』は、
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http://item.rakuten.co.jp/books-sanseido/ebm-dobunkan001/
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