方針4 求められた抱っこには100%答える
転んで痛い思いをしたり、犬にほえられて驚いたり、お友達におもちゃを取られて悔しい思いをしたり。赤ちゃんがつらい気持ちになったときには、決まってある行動をします。
それはお母さんを探して、飛びつくこと。しがみついて、抱っこを求めます。こういうときには、何があっても100パーセント応えてほしいのです。これが最後の大事な方針になります。
子どもがしがみついてきたら、抱き上げてやって「どうしたの?」「そうか、痛かったんだね」「痛いの痛いの飛んでいけ」と気持ちを受け止めてください。そうしてやると、子どもの脳の中にはオキシトシンといった幸せを感じるホルモンがいっぱい分泌されることがわかっています。やがてつらかった気持ちが消えていき、落ち着いて、子どもは「もういい」と離れて、また遊びに行けるようになるのです。
発達心理学の言葉で、親子の間にできる信頼関係をアタッチメント「attachment(愛着)」と呼びます。この言葉は、「くっつく」という意味の「attach」を語源としています。
つまり、しがみつく行動を保証することが、アタッチメントという意味なのです。直接触れなくても、温かく見守る、つまり目で触れてやることでも同じような効果があることが分かっています。それだけで子どもは意欲的になり探索行動が増えるのです。
生きる力の土台となる「古い脳」がしっかり育つ
こうしたことを繰り返すうちに、赤ちゃんはいちいちお母さんにしがみつかなくても、自分で自分を癒やすことができるようになります。何かあったら、お母さんが抱きしめてくれるから大丈夫。そう思って、自分の心の中にいる温かいお母さんに慰めてもらうことができるのです。このようになることを、発達心理学では「心の安全基地ができた」と表現します。
心の安全基地ができた子は、自分の感情を上手にコントロールすることができます。お母さんを通じて人への信頼感が育っているから、友達とケンカしてもすぐに仲直りして、楽しく遊ぶことができます。「自立心」「協同性」「道徳性・規範意識の芽生え」につながります。
こうして育つ社会性や人への信頼、楽観性といった特性は、脳の奥にある大脳辺縁系や脳幹部がつかさどっているといわれています。これらの部位は進化の初期段階で獲得した“古い脳”で、生命維持のために安全や危険、好き嫌いを判別し、行動に影響を与えます。思考力や記憶力、計画性などをつかさどるのは、大脳新皮質という“新しい脳”ですが、これを働かせるエンジンを古い脳が担っているのです。
つまり、しがみつく行動を保証し、心の安全基地をしっかりつくることは、古い脳を健やかに育てることにつながり、やがて新しい脳である大脳新皮質を上手に使うことができる頭のいい子を育てることにつながります。世の中には、早く自立させようと、厳しく当たる親もいます。しかし、それは残念ながら逆効果です。生きる力の土台となる古い脳が脆弱だと、新しい脳もすくすく成長していくことはできません。しっかりした土台をつくるために、四つの方針を大事にしてみてください。