一生懸命暗記しても、すぐに忘れてしまう人は何がいけないのか。記憶のプラットフォーム 「Monoxer」を研究開発する畔柳圭佑さんは「記憶を定着させるには定期的なメンテナンスが必要です。それを習慣にするためには短期目標を定めることが大切」という――。

※本稿は、畔柳圭佑『記憶はスキル』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を加筆再編集したものです。

目覚まし時計とカレンダー
写真=iStock.com/Tatomm
※写真はイメージです

「忘れない」ためにはメンテナンスの習慣が必要

記憶する必要性や重要性は感じていても、試験のような明確なゴール設定がないと「いつ役に立つかわからない」と感じてしまい、記憶のメンテナンスをし続けることへのモチベーションが湧かなくなってしまいます。

特に社会人になって仕事をしていると、短期的に重要性が高いことや締切が決まっているもの、すぐに役に立つと思うことに優先的に時間を取られてしまいます。しかも、頑張って記憶したとしても忘却は避けられるものではありません。

それゆえ、高いモチベーションを保ち、記憶のメンテナンスを継続することが、大人になるほど大変になります。

そこで重要なのが、記憶を習慣化することです。

定期的に記憶のメンテナンスをすることが、忘れてしまうことを防ぐ最も効果的な手段です。また、分散効果を利用することで記憶が定着しやすくなることからも、学習はやる気が出たときに集中して進めるのではなく、毎日少しずつ積み重ねることが近道といえます。

新しい習慣に取り組むのは大変なことですが、いったん習慣にしてしまえば、そのあとは自然と継続できるようになります。つまり、ここが努力のしどころなのです。

では、どのように記憶を習慣にしていけばよいのでしょうか。

(1)意志の力は最初だけ

新しくなにかを習慣にしたいときは、自由意志に頼らないことが大切です。

一般的に、なにかを継続するためには高い目標を設定して、そこに向かって強い意志を持って取り組んでいくことが大事だと考える人が多いのではないでしょうか。そのような人は、「自由意志に頼らないことが重要」と言われると驚くことでしょう。

ベンジャミン・リベットという生理学者がおこなった自由意志に関する有名な実験があります。

【エビデンス】

被検者は自由なタイミングで指を曲げると同時に、時計を見てその時刻を報告します。そのタイミングと、電位センサーによって記録された脳の活動のタイミングとを比較するという実験です。

一般的に、指を曲げようという意志があり、その結果脳から「指を曲げる」という司令が出て、指が曲がる。つまり意志決定が先にあり、そのあと脳の電位の変化があり、指が曲がるという順番で起こると予想されます。

しかし、実際には脳の電位の変化は、指を曲げるという意志決定よりも、0.4秒ほど前に脳が「指を曲げる」という指示を出していることを示していました。

さまざまな追試で、同様の現象が起こることが確認されています。