<香川県はこの案を四国における地理的条件から至当であると賛意を示し、徳島県も徳島医学専門学校の大学昇格運動と連動して総合大学設置を協力すると表明して、4県一体となって文部当局に要望することを決議された>(『香川大学五十年史』)

このとき、現在の高知大(旧制高知高等学校)と愛媛大(旧制松山高等学校)のあいだで文学部と理学部をどこに置くかで、もめにもめた。

同じころ、九州でも熊本、大分、宮崎、鹿児島4県の「南九州総合大学」案が持ち上がっている。

<南九州に総合大学をつくる点では各県とも意見が一致した訳だが、それが決ってから中心をどこにするかは今後の問題であり、熊本を中心にするためには県民が余程の熱意を示さねばなるまい>(『熊本大学三十年史』)

このとき大学本部の所在地を熊本にするか、鹿児島にするかで対立している。

こうした統合話はどうなったか。北陸、四国、南九州いずれも県を超えたブロック、地域単位の総合大学は生まれなかった。国が国立大学を都道府県に1大学設置する政策を徹底させたからである。

だが、この原則は、2000年代前半の行政改革による統合再編案で破られようとしていた。

そして、現在の話、「大学ファンド」である。どの大学も運営資金はのどから手が出るほど欲しい。そのために歴史、伝統をかなぐり捨てるような動きが出てくる。とくに地方では生き残りをかけて、「大学ファンド」のため近隣の大学が結束し、統合する話が進むかもしれない。

大学が統合した際、たいてい主導権争いが起こる。学長はどこから出すのか、学部の振り分けをどうするか、本部機能をどこに置くのか、細かな学則をどこに合わせるのか。

東京医科歯科大、東京工業大の統合協議はどのように進むのか。1法人2大学で名称は変わらない、あるいは、1法人1大学として、「東京医科歯科工業大学」になるのか。

2大学は統合への協議が明らかになったあと、同じ文章を発表した。

<両法人の統合は今後100年において日本の科学技術と社会、さらには地球環境等の課題解決に向けて極めて有効な選択肢であると考えておりますが、その最終決定は今後の両法人における協議に委ねられており、現時点では何も決定したことはありません。今後、本法人内でもより多くの構成員の意見を聞きながら集中的に協議を進めて参ります>(両大学のウェブサイト)

一字一句変わらず、とてもお役所的なもの言いなのが、残念である。2大学の特徴が何も見えない。両大学が何をしたいのか、抱負というか、野望を見せてほしかった。

(教育ジャーナリスト・小林哲夫)

当記事は「AERA dot.」からの転載記事です。AERA dot.は『AERA』『週刊朝日』に掲載された話題を、分かりやすくまとめた記事をメインコンテンツにしています。元記事はこちら
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