今の日本で円安が進むのは危険

ただし、今まで述べてきたことは、平時の話です。私は『一ドル二〇〇円で日本経済の夜は明ける』(講談社)という本を2002年1月に出しました。

「1ドル=200円になれば、日本経済は復活するぞ」という内容です。そのときは財政状況がギリギリ、まだ平時と言える状態だったので、そう書きました。「(財政が悪化しているので)薄氷の上を歩くような細い道ではあるが」と断っています。

しかし日本は、その後もお金のばらまきを継続し、財政状態を極端に悪化させてしまいました。その危機先送りのために財政ファイナンスを始めてしまったので、今では日銀が危機的な状態に陥っています。

この状態で円安が起きると物価が上昇しますが、日銀にそれを抑える手段はなく、インフレが止まることなく加速していきます。また、日銀が利上げすれば、日銀の債務超過で、即ハイパーインフレです。

政策的な大チョンボをやってしまった後なので、強力な経済の安定装置である為替が働かなくなってしまったのです。だからこそ今、日本で円安が進むと危険だと私は言っているのです。

円安が日本経済を復活させる唯一の処方箋だった時代を、日本は無為に過ごしてしまったと思っています。それもこれも、ばらまき、放漫財政が元凶だと思います。

渋谷のスクランブル交差点
写真=iStock.com/MarsYu
※写真はイメージです

世界はこれから通貨高戦争が起きる

前述したように、景気をよくしたいときは自国通貨“安”が望ましいのです。ですから、(自国通貨安を志向する)通貨“安”戦争が起きました。

日本が円安を志向すると「近隣窮乏化政策だ」と近隣から非難されたのです。円安になるとアジア各国の通貨が上昇し、アジア経済が停滞してしまうとのクレームでした。

しかし世界中でインフレ懸念が出てくると、今ではどの国も通貨高を志向します。まさに通貨“高”戦争が起きるわけです。自国通貨高はインフレを抑える最強の武器だからです。

その中で唯一、黒田日銀総裁だけが「自国通貨安がいい」と言っているのですから、他国と利害が一致します。通貨戦争どころか、国際協調もいいところです。その結果、ものすごい円安が予想されるのです。

アベノミクスを支えたリフレ派の失敗

2012年1月、私が『なぜ日本は破綻寸前なのに円高なのか』(幻冬舎)を出版したとき、後に安倍政権のブレインになられた浜田宏一イェール大学名誉教授が、この本を書店で偶然見つけて読んでくださったそうです。私と会いたいとおっしゃってくださり、すし屋で2人で盛り上がりました。

浜田先生は「この30年間の日本経済低迷の原因を円高だと主張しているのは、君と僕だけだ」とおっしゃったのです。そして、円高修正の手段として「リフレが必要だ」とおっしゃいました。ですからその意味では、異次元緩和を推進した浜田先生はリフレ政策で円安に誘導し、経済回復につなげたかったのだと思います。