しかし、私は「先生は米国に住み、米国で教えているからリフレが自国通貨安を生み、景気回復につながると思われるかもしれませんが、準社会主義体制で市場原理が発達していない日本では、リフレでは通貨安になりません。それにリフレ政策は、『ジリ貧から脱しようとして、ドカ貧に墜ちる』政策ですので、私は反対です」と申し上げました。
リフレ政策をやれば、インフレをコントロールできなくなり、ハイパーインフレになってしまうという主張です。あのとき、浜田先生に申し上げた通りの道を日本は歩んでいるような気がします。円安は前述したような政策(税制改革、日本国債のドル建て発行、マイナス金利政策)で導けばよかったのです。
なぜアベノミクスで景気回復ができなかったのか
市場原理の発達している国でリフレをやれば、国内から高い金利を求めて海外に資金が出ていき、自国通貨を売るので自国通貨安が起こって景気は回復、デフレから脱却できていたはずです。
しかし日本は、市場が効率的でないため円が国内にとどまり、円安による景気回復が起きなかったのだと思います。
仮にゆうちょ銀行が外資だったら、預金として大量のお金が流入した場合、為替リスクをとって海外に投資したはずです。そうしないと高いリターンが得られないからです。株主の力が強い株主資本主義の国の銀行なら「高い給料を取っているのに、ほぼゼロ%の運用とは何事だ。経営者は全員クビだ」となってしまいます。
会社が株主のものとは言い切れない日本企業では「損しなければ、低いリターンであっても他社と同程度なら、経営者は安泰」なのです。だったら、あえて為替のリスクなどとろうとしません。
その結果、日本で起きたのは、円を外貨に換えての外貨投資ではなく、外貨を調達しての外貨運用だったのです。したがって、リフレをしても日本の景気回復、デフレ脱却にはつながらない。私の主張した方法で円安を導くべきだと言っていたのです。
「価値通貨の安定」は日銀の使命のはずだが…
黒田日銀総裁は相変わらず「円安は日本経済にプラス」との主張をかたくなに掲げ、円安進行は無視する方向のようです。しかし通貨価値の安定は日銀の基本使命のはずです。
国力に合わせて為替が動くのは望ましいのですが、そうは言っても通貨が暴落するのは最悪です。
澄田元日銀総裁は、1989年12月15日に日銀本店にて行った総裁退任挨拶で「中央銀行の最大の使命は通貨価値の安定にある」「中央銀行の基本的使命は通貨価値の安定にあり、その使命達成のために頑固に、ときには愚直に信念を貫く必要がある」と述べられています。
黒田総裁に、その認識はあるのでしょうか?
黒田総裁が総裁になる前は、日銀は株式や長期国債など価格が大きく動く金融商品は、資産としては保有していませんでした。それが我々金融界で働く者の常識でした。
まさに通貨の暴落を防ぐためです。金融商品の価格が下落すると評価損が生じ、ひいては日銀が債務超過になるのを防ぐためです。