株式、国債を必死に買い支えた
株式を金融政策目的で保有しているのは、主要国の中央銀行では日銀だけです。また、2022年3月末現在の保有国債526兆円のうち、511兆円が長期国債です。こんなに長期国債を爆買いしている中央銀行は日銀だけです。
私が金融マンだった頃(2000年3月末まで)、日銀は株式を持たず、国債も3カ月までの短期国債だけで、長期国債の購入はほぼゼロでした。長期国債は成長通貨として経済が成長した分、すなわち市場に売り戻す必要のない額だけの購入でしたので、ごく微量だったのです。
サマーズ元米財務長官が「インフレにするのは簡単だ。中央銀行が信用を失えばいい」と発言したことは前述しましたが、信用を失う最たるものが債務超過(民間で言えば倒産状態)です。
そのような事態に陥らないように中央銀行は株式や長期国債を買わなかったのです。それを黒田日銀は大破りしています。「通貨の安定が日銀の責務」であることを認識しているのか、懐疑的なのは私だけではないでしょう。
債務超過で信用を失えば、円は大暴落する
通貨は、中央銀行が健全な限り、国力を反映しますが、中央銀行が信用を失えば、国力が十分にあっても暴落します。
通貨の価値とは、ひとえに中央銀行の財務の健全性にかかっているのです。それは2018年9月に雨宮正佳日銀副総裁が日本金融学会で行った講演の中でも明言されています。雨宮日銀副総裁でなくとも金融マンにとってみれば常識です。
終戦後のドイツで、ライヒスバンクという中央銀行をブンデスバンクという中央銀行に変えただけでハイパーインフレが鎮静化したのが、それを証明しています。ドイツの国力や供給力などは新中央銀行創設の前と後で何ら変わらなかったのに、創設でハイパーインフレは鎮静化したのです。
このことからもわかるように、インフレの発生原因(=モノやサービスの需要過多や通貨価値の下落)とハイパーインフレの発生原因(=中央銀行の信用失墜)とは全く異なるのです。ですからデフレからインフレ、そしてハイパーインフレという経緯をたどるとは限らず、一晩でデフレからハイパーインフレに変わる可能性があるのです。原因が違うからです。
2018年10月20日の日本金融学会における特別講演の中で、雨宮日銀副総裁は「もちろん、中央銀行への信用が一たび失われれば、ソブリン通貨(注:法定通貨)といえども受け入れられなくなることは、ハイパーインフレの事例が示す通りです」と述べられています。
これは雨宮副総裁でなくても、金融マンにとってみれば常識です。中央銀行の信用が失われる最たるものは「債務超過」です。そして日銀は、もう一歩で「債務超過」の状態なのです。