「利用可能性ヒューリスティック」のわな

「だって株ってよくわからないですよね。でもドルやユーロなら海外旅行に行く時にいつも使っているのでとてもなじみがあるから」というのが答えでした。私はこの話を聞いて、これは行動経済学で言うヒューリスティック、それも典型的な“利用可能性ヒューリスティック”ではないかと感じたのです。

利用可能性ヒューリスティックというのは頭に思い浮かびやすい、目立ちやすい特徴や手がかりだけで判断しがちな心理のことを言います。例えば「銀座でおいしいイタリアンのお店はどこ?」と聞かれたら、あなたはどう答えますか? もしきちんと調べようと思えば、自分の知っている店だけではなくガイドブックを見たり、口コミサイトの評価を読んだり、又は知り合いに聞いたりして総合的に判断するのが正しいやり方ですよね。ところが多くの人は自分が行ったことのある店が頭に浮かぶためにその店を勧めがちになります。

でもこれはごく自然なことなのです。世の中で何か判断したり意見を言ったりする場合、全てにおいて論理的に考えて正しい答えを出すことなど不可能だからです。実際に大半のことは経験値や感覚で答えても実際の生活には何ら影響はありません。ところが、投資などのように金融商品を活用する資産運用においては、ヒューリスティックは禁物です。

株式投資よりFXの方がはるかに難しい

私が話を聞いた投資初心者のように、海外旅行で外貨を使うからということで外貨を身近なものと感じ、外為投資についてのリスクを正しく認識せずに安易に判断して手を出してしまいがちになる、というのはまさに「利用可能性ヒューリスティック」なのです。

空港を移動する人たち
写真=iStock.com/izusek
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確かに海外に行くことでドルやユーロはなじみがあるし、“知っている”ことは事実ですが、その価格変動のメカニズムやそれに投資をすることでどれくらいの損益が生じるのかを“理解している”こととは全く別問題です。そういう基本的な知識を持たないまま、FXをやるのはとても危険な行為と言って良いでしょう。それにそもそも株式投資よりもFXの方がはるかに難しいのです。その理由をお話します。