アマゾンに「5つ星」の評価を投稿するなら、商品を無料で提供する。そんな悪質なやらせ業者が後を絶たない。やらせ業者に協力する人たちは、なにが動機なのか。ジャーナリストの横田増生さんは「私が話を聞いた人は、タダでもらった商品をメルカリやヤフオクなどで転売していた。『月10万円は稼げます』と自慢する人もいた」という――。(第2回/全2回)

※本稿は、横田増生『潜入ルポ アマゾン帝国の闇』(小学館新書)の一部を再編集したものです。

アマゾンのウェブページを接写
写真=iStock.com/PictureLake
※写真はイメージです

「扇風機、懐中電灯、傘、水着、犬のおもちゃ…」

「僕が今まで、アマゾンから0円で仕入れた商品ですか?」

そう言って、上原浩介(26)=仮名は、自慢げに語りはじめた。

「財布にTシャツ、靴、コンピュータのマウス、コンピュータのキーボード、イヤホン、扇風機、懐中電灯、傘、水着、犬のおもちゃ、赤ちゃん用のトレーニングパッド……。そのなかで一番値段が高かった商品は、ドライブレコーダーで8999円でした。全部の点数では、30点前後ですかね。転売目的で手に入れた商品です」

上原の話を聞いたのは、大阪市内にあるホテルの中にあり、自然光がよく入ってくる天窓の高い、洒落たレストランだった。

法律にも引っかかりそうな話をあっけらかんとした態度で話す彼に、私は違和感を抱いていた。また、1時間の取材の間、彼は終始、スマホをいじり、メールやLINEのやり取りをつづけており、その態度を不思議な気持ちで眺めていた。

転売ヤーが利用するアマゾンの「0円仕入れ」

上原は、アマゾンに5つ星のレビューを書くことを条件に、商品をタダで手に入れることを《0円仕入れ》と呼んでいた。いわゆる、フェイクレビューである。それを《0円仕入れ》と言い換えるのなら、まともな商売のようにも聞こえるのだが、やっていることは詐欺まがいの行為である。そうした私の当惑に関係なく、上原は話を得々とつづける。

「はじめたのは、4、5カ月前のことですかね。友人からアマゾンで《0円仕入れ》っていうのがあるよって聞いて、ネットで検索してみたんです。フェイスブックにいくつものグループがあって、そこで出品者がレビューしてほしい商品を掲示しているんです。僕は10グループほどに登録しました。

タイムラインに流れてくる商品を見ながら、転売できそうな商品を見つけたら、投稿者にメッセージで、レビューさせてください、って連絡するんです。梅雨の前には傘を仕入れ、夏の行楽シーズン前には自撮り棒などを仕入れる、といった感じです。出品者からの了解が出たら、その商品をアマゾンで購入して、その後、5つ星をつけてレビューを書いた後で、(決済サービスの)ペイパルを使って購入金額を全額返金してもらうんです。商品の値段にプラスアルファで500円を上乗せして払ってくれる気前のいい出品者もいました」

タダで入手した商品はメルカリなどで転売する

どんな人が出品者なのだろうか。

「想像ですけれど、99%が中国人の出品者だと思いますね。一応、通じるレベルではあるんですが、日本語が怪しいですし、やり取りの途中で、中国語で返事が来たときもあります。そういうときは、ネットの翻訳機能を使って返事を書いたこともありました」

出品者はどのような要求をしてくるのだろう。

「アマゾンで購入した商品を、5つ星でレビューしてくれというのが1点。2点目はある程度の字数、200〜300字ぐらいで書いてくれ、というもの。3点目は、できれば商品の写真もつけてくれ、という感じですかね。でも、僕は、絶対、写真はつけませんでした。どうしても写真がほしいという出品者の場合、たいていは、中国のアリババや淘宝(タオバオ)で同じ商品が出品してあるので、グーグルで画像検索して探すんです。そこから写真をダウンロードして、適当にトリミングしてつけました」

そうしてタダで手に入れた商品はどうするのか。

「メルカリやヤフオクで新品として転売します。だから、レビューのために写真を撮るとなると、いったん開封するので、新品にはならないでしょう。転売に一番いいのは、イヤホンなどの小型の家電製品ですね。置いておくスペースも要りませんし、だいたい1週間前後で売れていきます。5000円の商品なら、3500円ぐらいの値段をつけて売ります。どうせタダで仕入れた商品なんで、売れた金額がそのまま利益ということです。まじめにやれば、軽く月10万円ぐらいは稼げますよ」