※本稿は、横田増生『潜入ルポ アマゾン帝国の闇』(小学館新書)の一部を再編集したものです。
「何でもかんでも隠し通そうとする姿勢に嫌気がさしたんです」
私のアマゾンでのアルバイトの最終勤務日が終わった後の夕刻、平塚駅前の個室居酒屋で西川正明(仮名)に会った。アマゾンの小田原物流センターが稼働したときから働いている古参社員だった。
席に着くとまず、西川の社員証を見せてもらった。アマゾンの正社員であることを表すブルーバッジに、顔写真が貼ってあり、名前が記してあった。私を含めたアルバイトのバッジが緑色であるのに対し、アマゾンの正社員はブルーバッジとなる。アマゾンの正社員がブルーバッジをつけるのは、世界共通だ。
私は最初に、どうして週刊誌の情報提供サイトにアマゾンを告発するメッセージを送ったのか、と尋ねた。メッセージは、A4用紙で4枚分あった。アマゾンという会社は、どこもかしこも秘密主義で貫かれており、こうした内部告発をする社員は皆無に等しいことを、これまでの取材で骨身にしみて知っていたからだ。西川は一気にこう答えた。
「ボクは、アマゾンが自分たちに都合の悪いことは何でもかんでも隠し通そうとする姿勢に嫌気がさしたんです。小田原では作業中に亡くなった人を何人も知っています。けれど、亡くなった翌日に、花瓶に入れた花を飾るだけで、ワーカーさんには何も説明しないんです。
ボクが、死亡事故の後で、ワーカーさんにもちゃんと説明した方がいいんじゃないですか、と社内で言っても、みんなに話してもたいして意味がないから、といったわけのわからない理屈をつけて、説明することから逃げたことがありました。
また、自分たちがセンター運営に関する大きなミスをしてワーカーさんに迷惑をかけても、それを謝るわけでもなく、ひたすらごまかそうとします。さらに、社員間やワーカーさんに対する、セクハラやパワハラもあります。アマゾンの秘密主義のため、こうした話が、マスコミで報道されることなく、ネットの2ちゃんねる(現在の5ちゃんねる)ですら、ほとんど見つけることができません。
果たしてこれでいいのか、ボクたちは日々ワーカーさんの信頼を失っているんじゃないのか、と悶々としながら働いているんです」