なぜすぐに救急車を呼ぶことができなかったのか
朝礼で「搬送するまでに時間がかかった」という話が出たということを聞く前から、私が内田の亡くなった経緯を聞いていて繰り返し疑問に思っていたのは、なぜもっと早く救急車を呼ばなかったのか、ということである。
アルバイトは、作業場への携帯電話の持ち込みが許されていない。しかし、アルバイトでもリーダー以上となると携帯電話を持っている。内田が倒れているという報告を受けた最初のリーダーが、すぐに救急車を呼んでいれば、もしかしたら内田は助かっていたのかもしれない、との思いが憤りとともに何度も頭を駆け巡った。なぜ、電話をかける先が、スーパーバイザーやアマゾン社員である必要があったのか。
死因となった、くも膜下出血についてネットで調べると、倒れたらすぐ救急車を呼ぶことが重要だ、とあり、「できるだけ早く治療を始めると、より効果が高く、後遺症もより少なくなる」と書いてある。
死因が何であろうとも関係ない。話は簡単である。目の前で意識を失って倒れている人を見たら、119番に連絡する。なぜこれができなかったのか。
センター内には健康を気遣うポスターが貼られていたが…
私が物流センターで働いていたとき、いろいろなポスターが貼ってあった。労働者の働きぶりを監視しているようなポスターが数多く貼られていたのだが、それと同じぐらい多いのが健康に関するポスターだった。
トイレに貼ってある、おしっこの色で自分の健康を確認しましょう、というポスターから、機械の巻き込み事故や転落事故の最新の労災認定の国内の統計数字や、熱中症対策のために水分を補給しましょう──などなど。アマゾンは、アルバイトの健康に大きな関心を寄せていますよ、というメッセージにも読める。さらに、休憩室には、「倒れている人を発見したら」というポスターもあった。
「発見者は、すぐ近くにいるリーダー、スーパーバイザー、アマゾン(携帯電話保持者)に連絡」、「リーダー、スーパーバイザー、アマゾンは、呼吸をしてない、返答がない(意識がない)場合は、すぐに119番通報を行う」とある。加えて、「呼吸停止10分で、蘇生可能性50%。救急車は8分で到着(全国平均)。救急車の手配と心臓蘇生法開始が救命の鍵」と書いてある。
人が倒れたら、その後の迅速な対応が、生死の分かれ目になることは、アマゾン内で情報として共有されていたわけだ。しかし、現実に内田に行われたことは、これとはまったく逆のことである。
言行不一致の理由は何なのか。