3年間で3人が亡くなっていた

話している間でも、居酒屋の店員が引き戸を開けて注文を取りにくるたび、西川がピタリと口を閉じる。誰かに聞かれるかもしれないという警戒心を感じた。

西川が確実に知っている範囲でも、小田原の物流センターの立ち上げの直後の13年から16年にかけて3人死亡したという。いずれも夜勤の男性で、1人はピック作業中に倒れ、20〜30分間動かないでいたところを、発見されたが亡くなった。

もう1人は、夜勤明けのロッカールームで倒れていた。私服に着替えた後だったので、どこの派遣会社の所属かわからず、それを調べるのに手間取ったのもあり、救急車で搬送中に亡くなったという。翌日に花瓶の花を飾ったというのはこのときのことだ。最後の人は、夜勤の勤務中に倒れて亡くなった、という。

これはちょっと情報が古いかな、と私は思っていた。亡くなった人のことを確認しようとしても、入れ替わりの激しいアマゾンのような職場では、当時のことを正確に覚えている人は多くないのではないか、と考えていたら、次につい最近亡くなったアルバイトの話を聞いて驚いた。

私がアマゾンで働きはじめる直前の10月上旬に亡くなっているのだ。亡くなったのは10月10日の午前9時過ぎ。50代の女性が、ストー(棚入れ)の作業中に倒れ、そのまま亡くなったという。女性の名前は内田里香(仮名)で、派遣会社の名前もわかっている。これなら、遺族までたどり着ける可能性があるな、と思いながら話を聞いていた。

“いびきみたいな音”をたてながら倒れていたアルバイト

次に西川が語る「ワーカーさんへの迷惑」というのは、私が働く半年前に起こった。アマゾンが現状の派遣会社経由でのアルバイトの契約を打ち切り、時給を300円近く引き上げ、アマゾンとの直接雇用に切り替えようとした。しかし、思い通りにアルバイトが集まらず、計画を打ち切ったことを指している。

最後のワーカーさんへのパワハラは、体調を崩して休みがちになったアルバイトを無理やり自主退職に追い込んだことなどを意味している。そのなかでも重大に思えたのは、働いている最中に亡くなった人が複数いるということだ。

まずは、10月10日に亡くなったという内田について取材を進めた。複数の関係者に話を聞いた結果、内田が亡くなったのは次のような経緯だった。

内田の勤務時間は朝9時から夕方6時まで。そして、9時半ごろに、4階の物流センター内で“Bトンボ”と呼ばれる調達用品の置き場の近くの棚の間に内田が倒れているのが発見されたという。発見したのはピッキングのアルバイトの男性だった。その男性は、倒れた内田が発するいびきみたいな音を耳にしている。

男性が、そのことをアウトバウンド(商品のピッキングから梱包・出荷までの作業)のリーダーに連絡すると、それをインバウンド(商品の納品から棚入れまでの作業)のリーダーに引き継いだ。ピッキングというのはアウトバウンドの一部で、内田の担当していたストーはインバウンドの一部だからだ。インバウンドのリーダーは、「あとは、オレがやっておきますんで」と言って引き継いだ。

ちなみに、この“Bトンボ”は、4階の詰所から歩いて1、2分の位置にある。このインバウンドのリーダーは、上司のスーパーバイザーに携帯電話で連絡してから、内田が倒れている現場からいったん離れた。

倉庫内に積まれた段ボール
写真=iStock.com/Petrovich9
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