「責任取ってもらえるよね」恐怖の恫喝

マズいことになったと思い、いったん保留にして調べた。

私が説明をした時点では、使用したサイト名は請求書に記載されていなかった。だが、システムが変更され、今月からサイト名が請求書に記載されるようになった。この人はそれを確認したうえで電話をしてきている。

この程度の変更で損害が発生するか考えた。誰にも知られたくないサイトの名を家族に知られてしまったぐらいのことはあるかもしれないが、それが損害ということになるのか。

「間違った案内をしてしまい、申し訳ございませんでした」
「そうだよね。間違ったこと言ったよね。認めるよね。責任取ってもらえるよね?」
「今回の変更で、お客さまに不利益になるようなことが何かございましたでしょうか?」
「不利益になるようなことがございましたでしょうか、じゃないよ。間違ったこと言ったわけでしょう? それに対してどう責任取ってくれるのよ」
「私にできることがあればやらせていただきますが、どのようなことでしょうか?」
「どのようなことでしょうかって、自分で考えてわからないの? あんたバカじゃないの?」
「……」

一方的にバカじゃないのと言われ、言葉に詰まった。

「あんたじゃ話にならないよ。上の人に代わってよ」

マイクをつけたオペレーター
写真=iStock.com/shironosov
※写真はイメージです

モンスターたちを黙らせる驚きの話術

代わって出たSVの棚橋さんは強気だった。

「責任とはどのようなことでしょうか? 間違った案内をしたことについてはお詫びします。ただ、どのような責任でしょうか。金銭的なことでしたらお断りします」

電話は10分も経たずに終わった。

「どうしようもない奴だね。『間違ったこと言われて気分悪い、迷惑したから金払え』だって」

結局は金の要求だったのだ。クレーマーの浅知恵に安堵あんどしながらも、毅然きぜんと相手を追い詰めていくSVの話術(※8)に脱帽した。

※8:SVごとにそれぞれの型があった。仕事のできる人は、どんな相手でどれだけ時間がかかっても自分の型に持ち込んでいた。その技術があるからSVが務まるのだろう。

吉川徹『コールセンターもしもし日記』(三五館シンシャ)
吉川徹『コールセンターもしもし日記』(三五館シンシャ)

SVにもいろんなタイプがある。辻本さんは相手が聞く耳持たずとわかると音量を最小にし、「そうなんですねー」とひたすら話を聞き流す。30分でも1時間でも「そうなんですねー」一本やりだ。相手が疲れて電話を切ると「はい、終わり!」と元気に椅子から立ち上がり、自分の席に戻っていく。

「バカ野郎!」と大声を出す相手に「バカ野郎とは何ごとですか!」と言い返すSVもいる。そのSVは相手が喚くばかりで話を聞いてくれないと、「私の話も聞いてもらえませんか?」と問いかけ、自分のペースに持ち込んでいた。

一見SVなど務まりそうにない華奢な女性が、お客に「死ぬぞ! いいのか!」とキレられ、「どうぞご自由に、お客さまの人生ですから」と切り返していた。人は見かけによらない。爽快感があった。

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