世の中には子育て情報があふれている。賢く幸せな子に育てるために親にできることは何か。東北大学准教授で3人の子を育てる細田千尋さんは「多くの情報の中で、個人の経験による意見とエビデンスに基づいた方法とを見定めることが重要です」という――。
机の上に積まれた本
写真=iStock.com/bee32
※写真はイメージです

ある一人の母親の子育て成功談にどれほどの意味があるのか

インタビューや講演の時に、よく聞かれるのが「どんな子育てをしていますか?」という質問です。世の中には、○○歳までの子育てなど、子育てバイブルとされるベストセラーが数多ありますし、「子どもを賢く育てること」は、多くの人の関心事なのだと思います。

私は科学者の端くれなので、子どもたちを“成功”に導いた、とある1人の母親の“子育ての方法”を参考にすべきとは思いません。なぜならそれは「個人の経験に基づく意見」であり、その方法が本当に意味を持っているかは、科学的に全く不明だからです。

ところが、このような説明をすると、「科学的、とかどうでもいいんです。自分の子どもができるようになるかどうかが大事で、研究でどうこうより、実際に子どもを成功に導いた人の話は参考になります!」ということをよく言われます。

「伝説の教師」の話も同じ

実は、ここに大きな誤解があります。科学的に妥当性がないということは、「その方法が効果(子どもの成績を上げるなど)がある良い教育法であるか不明」ということです。つまり、その人がやった方法を熱心に読んで学んで、仮にそこに書いてある通りにやったからといって、子どもが同じように成功するとは限らない、ということです。これは、個人の母親の子育て成功談だけではなく、○万人を成功に導いた伝説の教師やカウンセラーのような人が述べていることであっても、それが「個人の意見」としての域を出ていないものであれば、全く同様です。

そもそも、料理のレシピ本のように、その通りにやればみんな同じようなものが出来上がるというような子育てはないですし、有名な人の元や場所には、能力や経済力など条件のそろった人が集まるので、その効果の要因がどこにあるのかわかりません。