『ビル・ゲイツ未来を語る』での予測のひとつに、デジタル化によって住む場所の選択肢が増え、多くの人が都市から離れた場所に移るというものがあった。これは実現しそうになかったが、そこにパンデミックがやってきた。いま僕はその予測にいっそうの自信をもっている。企業のなかには、オフィスへの出勤は月に1週間だけでいいと判断するところも出てくるだろう。

そうなれば社員は遠くで暮らせるようになる。ほぼ毎日出社しなくてよければ、長距離通勤もあまり苦にならないからだ。こうした移行が起こりつつある初期の徴候がすでに見られるが、雇用者がリモートワークの方針を正式に採用していくにつれて、これからの10年でさらに増えると思う。

将来は「在宅勤務の希望」も履歴書に書くことになりそう

社員がオフィスにいるのは勤務時間の50パーセントでいいと判断したら、職場をほかの企業とシェアできる。企業にとってオフィス空間の賃料は大きな出費だが、それを半分に減らせるのだ。かなりの数の企業がこれをしたら、家賃の高いオフィス空間の需要は減るだろう。

いますぐに企業がはっきり決断しなければならない理由はないと思う。いまはA/Bテストの手法を試す絶好のときだ。ひとつのチームにあるやり方を試させ、ほかのチームに別のやり方を試させて、結果を比較し、だれにとってもふさわしいバランスを見つける。新しいやり方に慎重になりがちな管理職と、より大きな柔軟性を望む社員とのあいだには緊張が生じるだろう。将来的には在宅勤務の希望も履歴書に書くことになりそうだ。

履歴書
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現在の仕事の仕方は2020年3月よりもはるかに洗練されている

パンデミックによって、企業は職場での生産性について考えなおすことを強いられた。かつて別々に存在したブレインストーミング、チーム・ミーティング、廊下での立ち話といった領域の境界線が崩れつつある。職場文化に欠かせないと思っていた構造が変わりはじめていて、今後、新しい日常の働き方に企業と社員がなじんでいくにつれ、この変化はさらにすすむ一方だろう。

この先10年のイノベーションのペースには、たいていの人が驚くと思う。ソフトウェア企業はリモートワークのシナリオに焦点を合わせている。ウォータークーラーの前でたまたまだれかと会うといったような、同じ物理的空間で働く恩恵の多くは、それにふさわしいユーザー・インターフェースで再現できる。

ビル・ゲイツ『パンデミックなき未来へ 僕たちにできること』(早川書房)
ビル・ゲイツ『パンデミックなき未来へ 僕たちにできること』(早川書房)

仕事で〈チームズ〉のようなプラットフォームを使っているとしたら、2020年3月に使っていたものよりはるかに洗練された製品をすでに使用していることになる。ブレークアウトルーム、文字起こし、さまざまな画面表示のオプションといった機能は、いまではほとんどのオンライン会議サービスに標準搭載されている。ユーザーは提供されている豊富な機能を活用しはじめているところだ。

たとえば僕はオンライン会議の多くでチャット機能をよく使い、コメントを加えたり質問したりする。いま対面で会議をすると、グループの邪魔をせずにできるこの種のインターネット上のやりとりが恋しくなる。

やがてデジタル会議は、対面の会議を単に再現したものをこえる進化を遂げるだろう。リアルタイムの文字起こしによって、いずれは社内の全会議を横断してある話題について検索できるようになる。対処が求められることが話に出たら、やることリストにそれを自動で追加できるようになるかもしれないし、会議の録画を分析して、もっと生産的に時間を使う方法を知ることができるようになるかもしれない。

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