「コーヒーを飲んでから地下鉄で出社」はすっかり過去のものに

僕が好きな著者のひとり、バーツラフ・シュミル(1943〜)が何冊かの著書で使っているおなじみの話がある。若い女性が目を覚まして、インスタント・コーヒーをマグカップ1杯飲み、地下鉄で出勤する。オフィスに着くとエレベーターで10階へ向かい、自動販売機でコカコーラを買ってからデスクにたどり着く。この話のポイントは、シュミルが語る状況が1880年代のものであって、現代のものではないことだ。

地下鉄のホームに立つスーツの女性
写真=iStock.com/Johnce
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ずっと前に初めてこの話を聞いたとき、シュミルが描く場面がとても身近なものであるのに驚いた。しかしパンデミックの最中にこれを再読したときには、初めて彼が過去を描いているように感じた(ただし、仕事の最中にコーラを飲む部分については別だ)。

パンデミックによって永久に変わるあらゆる分野のなかで、最も劇的に変化するのはオフィス・ワークではないだろうか。パンデミックのせいでほぼすべての業界で仕事に混乱が生じたが、オフィス・ワーカーはデジタル・ツールを最も活用しやすい立場にいた。毎日どこかへ通勤してオフィスの机で働くというシュミルが描く状況は、1世紀以上もごく普通のことだったにもかかわらず、過去の遺物と思われるようになりつつある。

これを書いている2022年はじめの時点では、新しい日常がどのようなものになるのか、多くの企業と従業員がまだ模索しているところだ。すでに元に戻して、完全に出社して働くようにしたところもある。すべてリモートにすると決めたところもある。たいていは、そのあいだのどこかで最善のかたちをいまも探っている。

仕事をめぐる従来の常識がひっくり返されている

僕は実験の可能性にわくわくしている。仕事をめぐる従来の常識がいろいろとひっくり返されてきた。物事を見なおし、効果のあることとないことを明らかにするチャンスがたくさんあるのだ。たいていの企業はハイブリッド方式を選び、社員は週に数日オフィスに出勤することになりそうだが、それが正確にどのようなかたちをとるかについては、かなりの柔軟性がある。

会議のために全員にオフィスにいてもらいたいのはどの日だろう? 月曜と金曜にリモートで働かせるのか、それとも週の真ん中に在宅させるのか? 通勤渋滞を最小限に抑えるために、地域の企業がすべて同じ日を選ばないようにできたらいちばんだろう。