※本稿は、ビル・ゲイツ『パンデミックなき未来へ 僕たちにできること』(早川書房)の一部を再編集したものです。
世界のコロナ対策は優秀だったが、格差も明らかにした
全体としては、COVIDへの世界の対応は並はずれて優秀だった。2019年12月には、この病気のことはだれも聞いたことがなかった。それから18カ月のうちに、複数のワクチンが開発され、安全かつ有効であることが証明されて、30億をこえる人、すなわち地球上の人口の40パーセント近くに届けられた。地球規模の病気に人類がこれほど迅速に、あるいは効果的に対処したことはない。普通なら5年以上かかることを1年半で成し遂げたのだ。
しかし、この驚異的な数字のなかでも驚くほどの格差があったし、いまもある。
まず、パンデミックはすべての人に等しく影響を与えたわけではない。アメリカの黒人とラテンアメリカ系の小学3年生は、白人とアジア系アメリカ人の児童の2倍、教室学習に遅れが生じた。アメリカでは黒人、ラテンアメリカ系、アメリカ先住民は、すべての年齢層でCOVIDによって死亡する可能性が白人の2倍高い。
コロナ以前の所得レベルに戻るとされる貧しい国の人はわずか3分の1
パンデミックの全体的な影響が最も厳しく見られたのが、世界の低・中所得の国である。2020年、パンデミックのために世界中で1億近くの人が極度の貧困状態に追いやられた。これは約15パーセントの増加であり、数が増えたのは数十年ぶりだ。また、2022年にはほぼすべての先進国がパンデミック以前の所得レベルに戻ると見こまれているが、低・中所得の国では、それが見こまれるのはわずか3分の1にすぎない。
たいていの場合と同じように、世界で最も苦しんだ人は最低レベルの手助けしか得られなかった。貧しい国の人は、豊かな国の人と比べてCOVIDの検査や治療を受けられる可能性がはるかに低かった。最も著しい格差が見られたのがワクチンだ。