強者が仕組みを作っている

ジェンダーに対する意識はここ数年で変わってきているように思いますが、制度はなかなか変わりません。なぜなら、制度を決めるのは、従来の“強者”だからです。そして、強者ほどアンコンシャスバイアス(無意識の偏見や思い込み)を持ってしまう傾向があります。なぜなら、制度は自分たちに合わせて作られているので、困ることが少ない。悪意があるわけではないかもしれませんが、弱者が何に困っているのかがわからないのです。

例えば、選択的夫婦別姓にしても、結婚で姓を変えたりしたことのない男性の中には、その大変さやつらさがなかなか理解できません。ケガをして松葉杖になって初めて、歩道の歩きづらさが理解できるようになった、ベビーカーを押すようになって初めて、地下鉄の駅の不便さがわかった、という現象も似ています。悪意はなくても、自分が体験したことがないと、その不便さやつらさにはなかなか気付けないのです。

政治も企業も、結局“強者”が制度や仕組みを決めてしまうことになる。「イエ依存」の制度がなかなか変わらないのは、そこに原因があると思います。

先日の参院選での女性当選者は改選議席125議席のうち過去最多の35人。当選者数の女性比率はやっと28.0%になりましたが、非改選議席を合わせた参議院の議席全体で見ると25.8%で、ようやく4分の1に達した程度。衆議院では1割にも満たないお粗末さです。同質化の圧力、すごそうですよね。

内閣を男女半々にすべき

日本政府は2003年に、「国会議員や企業の管理職に占める女性の割合を、2020年までに30%にする」という目標を掲げましたが、全然達成の兆しがなかったばかりか、その後もヤル気がまったく見られません。

国が本気で取り組んでいないことが、周りにもバレてしまっているんです。そしてそれは、企業に対しても「とりあえず取り組んでいる格好だけ見せていればいいんだ」というメッセージを発することになっている。

「まずは内閣からでしょう」と思うんですよ。岸田文雄首相が、内閣の閣僚の半分を女性にしたらいい。それくらいやれば、波及して一気に変わるでしょうし、政府の本気度を内外に示すことにもなります。

たとえば台湾では、2005年の憲法改正で「クオータ制」が導入されました。各政党は比例代表の半数以上を女性にしなくてはならないと定められたんです。その結果、台湾はジェンダー先進国となり、2019年には同性婚が成立するなど今やアジアトップです。デジタル大臣のオードリー・タンさんの主導で市民の政治参画も進み、民主主義としても先進的です。

内閣や政治家の半分が女性になれば、これまでいた人たちには見えなかった困りごとが「見える」人たちが入るようになります。まずはいったんそれくらい大胆にやってみる。「男女の比率を定めるのは逆差別」とか「能力主義」に反する、とか言う方もいますが、本当にうまくいかなければ、また元に戻せばいいじゃないですか。現状がすごくうまくいっているわけでもないんですし。

ここまで、男性と女性についてお話してきましたが、ジェンダーにはもっといろいろなグラデーションがあります。現実の世界はもっとカラフルです。それなのに、日本の政治も企業も、まだ限りなく黒に近いグレー一色。ジェンダーだけでなく、さまざまな人びとの生き方のカラフルさが、もっと反映されるようになるといいと思います。

(構成=石井広子)
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