高校生になるといじめを止められなくなる

Q 友だちがいじめられていたら、相手を注意したりやめさせたりする事はできますか?

この回答で注目すべきなのは、高校生になると「できる」という回答が極端に少なくなる点です。中学生では約60%もある「できる」が高校生では約30%と半減しており、その代わりに「関わりたくない」が40%に増えているのです。

なぜ、このような結果になるのか大人にはなかなか想像がつきません。高校生になったとたんに、子どもたちは正義感を失ってしまうのでしょうか?

こうした変化の背後に何があるかは、自由回答を見るとよくわかります。高校生の自由回答には、「先輩ならできないけど後輩ならできる」「相手側や周りから何か言われそうで怖い」といった記述がとても多いのです。

ここから見えてくるのは、決して高校生の「ずるさ」ではありません。家族との関係よりも、むしろ友人や先輩・後輩との関係の方が、比重が大きくなっているという事実です。高校生になると、友だちとの関係の重要性が増すからこそ、いじめを目撃しても注意したりやめさせたりすることに葛藤を感じるようになるのです。「関わりたくない」という答えが多くなるのも、周囲に対して無関心になっているというよりも、周囲と良好な関係を維持したいからこそ、いじめ問題には目をつぶってしまいたいという本音の表れと見るべきでしょう。

私が相談を受けた子どもたちの多くが、「いじめに遭ったとき、友だちに助けてほしかった」と言います。ところが、「だったら、友だちがいじめられていたら助けるんだよね?」と質問すると、多くの子どもが「いじめにはなるべく関わりたくない」と答えるのです。

矛盾した答えだと思いますが、友だちのいじめ問題には巻き込まれたくない、自分を巻き込まないでほしいというのも、子どもたちの偽らざる本音なのだと思います。

子どもたちは報復を恐れていじめを相談できない

Q 自分がいじめられたことをだれかに相談することをどう思いますか

ご覧の通り「相談した後のことが心配」という回答が多く、しかも学年が上がるに連れて多くなっています。

心配になってしまう理由は、自由回答にあるように「逆恨みが怖い」や「本当に解決してくれるか心配」など。親や教師は「いじめられたらとにかく声を上げなさい」などと言いがちですが、「声を上げた後にしっかりとフォローしますよ」というメッセージとセットで伝えないと、子どもは声を上げることさえできないという実態がよくわかる結果だと思います。

報復が起きるのは「いじめ防止教育」ができていないため

実際、いじめられたことを先生に相談したことで、加害生徒から「お前、先生にチクっただろう」などと逆恨みをされて突き飛ばされたり、殴る蹴るなどの暴行を受けたり、あるいは無視されるようになったという事例を、私はたくさん見てきました。

さらには、加害生徒から報復を受けるだけでなく、無関係の生徒からも「あいつはチクり魔だ」といったレッテル貼りをされて無視をされるようになったという事例もあり、いじめがエスカレートするケースも少なくありません。こうした実態を子どもたちはよく知っているのから、先生や親に相談ができないのです。

報復が起きてしまう原因は、いじめを注意する先生たちが、「なぜ、人をいじめてはいけないのか」という根本的なことを加害生徒の心にしっかりと落とし込めていないことにあると、私は考えています。表面的な注意で終わらせてしまうから、逆恨みや報復を招いてしまうのです。もっと言ってしまえば、表面的な注意で終わらせてしまう先生自身、「なぜいじめはいけないか」を深く認識できていないのではないでしょうか。

いじめ防止の指導をする以上、「いじめはいけないことなのだ」という意識を子どもたちの心にしっかりと落とし込む必要があります。子どもが心からそれを理解するまで、何度でも指導を重ねる必要があるのです。

指導とは「同じことを繰り返させない」ためにするものであり、もしも、いじめが再発してしまったり、報復でいじめがエスカレートしたとしたら、先生は「自分がやったことは指導ではなかったのだ」と反省すべきなのです。