重要なのにフィールドワークが進まない2つの理由

こんなおいしい穴場があるというのに現在、アフリカでフィールドワークをしているのは私たちだけである。なぜ誰も手をつけようとしないのか?

フィールドワークが行われていない背景には2つほど問題がある。

1つは、治安の問題。白人はテロリストたちのターゲットになっているためフィールドで腰を据えて研究するのは難しいそうだ。白人が研究できないのなら現地の人が研究すればいいではないかと思われるだろう。そうなのだが、2つ目の問題としてアフリカ出身の研究者がバッタ研究に没頭できない事情があることをFAOのバッタ研究チームに属するレミン博士に教えてもらった。

「研究者を志す人たちは、ほとんどが外国に学位を取得しに行くのだが、一人前になって自国に戻ってくるとすぐに偉くなってしまい事務的な作業や運営に忙殺されて研究がほとんどできなくなってしまう」とのこと。

現在も毎年1人ずつアフリカでバッタ研究をする博士の人材育成にFAOは取り組んでいるが、彼らがまた偉くなってしまう可能性は高いだろう。白人も現地の人もフィールドワークができないとしたら、いったい誰ができるというのか? 誰がこの現状を打開するというのだろうか? 今、1人の男がアフリカに渡り、歴史が変わろうとしている。

サハラ砂漠でサバクトビバッタを追いかけ回し中
筆者提供
サハラ砂漠でサバクトビバッタを追いかけ回し中

バッタ被害を食い止めるのが使命ではあるが…

最後にこんなことを言うと怒られそうだけど、研究成果でサバクトビバッタを撲滅する気は毛頭ない。私はサバクトビバッタの数が増えすぎないようにコントロールすることができればと考えている。

日本が世界に誇る昆虫学者である桐谷圭治先生が提唱した「害虫も数を減らせば、ただの虫」という考えに賛成である。愛する者の暴走を止めることができれば彼らが必要以上に人々に恨まれずにすむ。

万が一、彼らを全滅させる手段を見つけてしまっても、きっと今の自分のままだと誰にも言わずに墓の中までもっていくと思う。もしかしたら、先人の中にもバッタの弱点を見つけたけど口外しない研究者がいたのではないだろうか。研究者を魅了してしまうのがバッタの最大の生存戦略なのかもしれない。