実験室では目にすることがなかったバッタの行動

実際に私はサバクトビバッタの生息地のサハラ砂漠で彼らと一緒に寝泊まりし、温度も湿度もほぼ一定の実験室との環境の違いの大きさに唖然とした。

サハラ砂漠では、昼は灼熱で夜は肌寒く、一日のうち30度近くも変動する。日中、あまりに暑すぎるときはさすがのサバクトビバッタたちも日陰に潜んでおとなしくしている。そして、明け方が一番冷え込むのだが、太陽が昇るとバッタたちは隠れていた植物から一斉に出てきて地面でひなたぼっこを始める。

太陽に体の側面を向けて効率よく体を温めていた。こんな行動は実験室では見たことがなかった。そして、風のなんと強いことか。普段でも突風が吹くことがしばしばあるのだが、フィールドワーク中に数回砂嵐に襲われたことがある。空の向こうから黒い塊が近寄ってくるなぁと呑気に見ていたら、暴風に乗って砂粒が容赦なくぶつかってきたので慌てて車の中に避難した。

砂漠の中の基地
筆者提供
砂漠の中の基地

フィールドでないと本当の意味はわからない

サバクトビバッタはその間、植物の陰に身を潜め植物にしがみついていなければ吹っ飛ばされてしまうだろう。吹っ飛ばされるだけならまだいい。彼らは常に天敵に食われる恐れがあるのだ。昼間は鳥たちが、夜になると地表を徘徊する天敵たちがうごめきだしてバッタたちに襲いかかるため捕食者たちにも細心の注意を払わなければならない。

サバクトビバッタは故郷から遠く離れた日本の実験室でも本能のままに行動するが、その行動の真意を知るためにはやはり彼らの本来の生息地で自然状態のまま観察しなければ答えは得られないのではないだろうか。本来のサバクトビバッタの習性を知らずに殺虫剤の撒き方だけを向上させようとしてもいつまで経ってもサバクトビバッタの大発生は阻止できないのではないだろうか?

正直、自分は今までフィールドよりも実験室での研究こそが一番重要だと信じていたので、自分がフィールドで生物と向き合う重要性を忘れていたことを心から恥じた。