脳が私たちを引きこもらせる
ここまでの内容をまとめてみよう。あなたや私は狩猟採集をして暮らすよう進化した。しかし座っている時間が長く、恒常的にストレスを受け続ける現代のライフスタイルによって、体内で炎症の度合いが高くなっている。それを脳が「危険にさらされている」と解釈する。人間の歴史のほとんどの期間、脳にそれを伝えることが炎症の役割だったのだから。
そして常に攻撃を受けているのだと認識する。だから脳は感情を使って私たちを引きこもらせる。感情というのは私たちの行動を制御するために存在するからだ。
脳は私たちのテンションを下げ、気分を落ち込ませ、精神状態を悪化させ、そのせいで私たちは引きこもる。炎症はつまり感情のサーモスタットなのだ。炎症が起きれば起きるほど、精神状態を悪くしなければいけない。私たちの中にはそのサーモスタットがとりわけ過敏な人もいて、それも部分的には遺伝子によるものなのだが、うつになる可能性を高めてしまう。
ということは、うつの人は全員体内で炎症が起きているのだろうか。そういうわけではない。炎症はうつを引き起こす重要な要因の1つだが、要因は炎症だけではない。
うつ全体の3分の1程度が炎症に起因しているとされる。ならばうつにも抗炎症剤が効くのではないかと思うだろう。そう、まさに効くことを示す点が多くある。炎症性サイトカインの産生をブロックする薬はうつにもある程度の効果がある。その薬だけでは充分な効果がないのだが、抗うつ薬の効果を高めるようだ。ただし、それはあくまでうつの原因が炎症だった場合で、そうでなければ効果はない。
うつは「隠された防御メカニズム」
私が診たうつ患者の多くが、自分は何が原因でうつになったのだろうかと頭をひねっていた。
社会的な要因を疑う人は多い。人間関係、仕事や学校などだ。しかしその視点で見ている限り、うつにも役割があることを理解できないだろう。
先述のとおり、うつを生理現象として捉え、細菌やウイルスとの関係性も考慮しなくてはならない。つまり、今日私たちにふりかかる比較的軽度な脅威ではなく、私たちが地球に現れて99.9%の時間、2人に1人の命を奪ってきた要因を元にして考えるということだ。
うつとはつまり、私たちを様々な感染から救ってきた「隠された防御メカニズム」なのだ。しかし現代のライフスタイルがその防御メカニズムを暴走させてしまうことがある。