抗精神薬で問題が発生しているのはなぜか

——代わりの薬は見つかるといいますが、抗精神薬では問題が起きるケースが報告されています。

【田中】精神科の患者様は、薬を替えることを敬遠されるケースが多いと思います。残ったメーカーが一生懸命、増産対応に取り組んでいるものの、メーカー同士が生産量を調整し合うことは、独占禁止法の違反になりかねません。メーカー同士のやり取りで、「あなたのところでは、この3月から4月までこのぐらい出してください。その後、私の方で調整します」とすると、問題になります。

公正取引委員会は生産量の調整をすれば、最終的には違法な価格調整につながると考えていると思います。

経済の需要曲線と供給曲線、それが交わるところが均衡価格となります。それに合わせて供給量を調整するということが、結果的に価格操作であるという見方だと思います。ですから、医薬品が抗精神薬で特殊だからといっても、対象外にはできないということでしょう。

検査体制を欺いた悪質な二重帳簿

——厚労省や地元の自治体の検査体制が甘かったのではないでしょうか?

【田中】私は検査体制(査察)が甘かったとは思いません。査察官には適正な教育が行われていますし、数多くの査察の経験もされています。小林化工は、不正が発覚しないように二重帳簿を作っていたようです。二重帳簿まで作られてしまうと査察で見抜くことは、かなり難しいと思います。

帳簿と電卓
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一方で都道府県による査察は、強制力があるわけではないので、「今から机のものに手をつけるな」というような強制的な調査はされません。いわゆる性善説によって成り立っています。「さすがに医薬品の製造において不正はないだろう」という前提かと思います。

ただし、通常の査察で確認できることもありますし、現場で長年経験を積んだ方であれば、あまりにも綺麗にできすぎたデータは怪しいといった、いわゆる経験をもとにした「勘」みたいなものがあるようです。

医薬品の製造は、人間が関わっていますから人為的な誤りをゼロにすることはできません。しかし、エラーをチェックし、気がついたら、それをきちんと報告できるような仕組みを作る必要はあります。エラーが出ました、と報告することで人事評価が下げられるようなことは許されないと思います。また、メーカーである以上は問題が起きた時には、原因をしっかりと分析し、改善をしないといけません。隠蔽いんぺいをしたがるのは個々の企業文化に関係すると思います。

他の業界でもいわれるように、急成長した会社ほど危ないのかもしれません。どこかに無理があるかもしれないということです。