慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会編、日本神経学会・日本頭痛学会監修の『慢性頭痛の診療ガイドライン2013』(医学書院)によると、日本国内では、薬物乱用頭痛の1年間有病率を調べたデータはありません。しかし、諸外国では人口の1~2%がこの頭痛に悩み、女性が全体の約70%を占めています。

もう一度、前回前々回でご紹介した図表1を見てみましょう。

一次性頭痛の関係図
提供=北原雅樹医師

有病率を日本の人口に当てはめると、患者さんは120~240万人と推計され、決して見逃すわけにはいきません。図の右側に薬物乱用頭痛を壁のように縦に示した理由は、患者さんの薬物乱用を何とかやめさせたい、薬物乱用頭痛という壁を乗り越えたいという目標、願いを込めたためです。

“薬漬け”から抜け出すしかない

薬物乱用頭痛(Medication Overuse Headache=MOH)の概念についてはおおむね一致しており、細かいところ、例えば、どれくらいの頻度や分量で薬を飲みすぎたら薬物乱用頭痛といえる症状に変わるのか、あるいは薬の服用をやめたらこの症状は治まるのか、などでは意見が分かれています。

明らかに薬が原因だから二次性頭痛であるという人もいますが、ここでは一次性頭痛のカテゴリーに分類しました。なぜならば臨床の現場では、医師も患者も片頭痛、緊張型頭痛のレベルでとらえている人が大変多いためです。

予防薬ではなく、治療薬(痛みの発作の時に使用する薬)を月10~15回以上使用した患者さんに薬物乱用頭痛が起こりやすいという傾向があります。まさしく乱用といえる頻度なのですが、起こさない人もおられ、原因は不明です。

薬物乱用頭痛から抜け出すには、治療薬を4~8週間はやめる必要がありますが、やめるのは大変ですし、やめてもよくならない人がいるので一筋縄ではいきません。さらには再発の危険性もあります。対処法をまとめますと、以下の通りです。

1.薬物乱用頭痛について十分に知る(医療者も患者も一般の方も)
2.乱用している薬剤をやめる(減薬ではなく完全にやめるほうが良い、できれば8週間)
3.必要に応じて片頭痛予防薬や非薬物療法(運動療法や心理社会的療法)を用いながらやめる(なかなか完全にピタッとやめることができないから)
4.再発を防ぐ

頭痛は簡単には治らない

予防法は、理学療法、鍼灸、バイオフィードバック、各種トリガーポイント療法、リラクゼーション、認知行動療法、マインドフルネスなどがメインになります。薬物乱用頭痛の予防薬は、片頭痛と同じで以下の通りです。

・抗けいれん薬系:バルプロ酸系、トピラマート(日本では保険適応外)
・ベータ拮抗薬系
・カルシウム拮抗薬系
・抗うつ薬系
・抗CGRP抗体(新しく出た薬)

先述の『慢性頭痛の診療ガイドライン2013』によると、薬物乱用頭痛の再発率は約30%とされています。片頭痛治療薬トリプタンを再び多用してしまう方が多いという事実を受け止め、予防薬を採り入れ、運動療法、リラクゼーション、呼吸法などにも目を向けることがもっと大切です。