もう一つのANA傘下のLCCが、成田空港を拠点に2012年8月から就航を開始するエアアジア・ジャパンだ。ANAが67%を出資し、残りの33%をエアアジアが持つ。ANAの連結子会社だが、代表取締役の岩片和行氏は親会社のカルチャーを踏襲するつもりはないという。

「FSAが従来のやり方で影響力を行使してはまずい。まったく別の文化をつくり上げ、初年度から黒字を出します」

「運航初年度から黒字」と強気のエアアジア・ジャパン岩片社長。成田市公津の杜にあるオフィスは殺風景で航空会社らしさはない。

強気の目標を下支えしているのが首都圏の需要だ。遠くて不便というイメージが強い成田空港だが、自宅最寄り駅から電車で2時間以内に成田空港に到着する人の数はざっと3000万人。関空圏内の1.5倍で、都内はもちろん横浜や北関東も圏内だ。成田スカイアクセス線ができ、成田は以前より近くなっている。

問題はその事実が周知されていないことと、空港までの交通費の高さだ。計画中とされる京成電鉄の格安バスが1000円を切る価格になれば追い風になる。

就航都市は、国内が札幌、福岡、那覇の3都市、国際線はソウル、釜山の2都市。ただし、岩片氏は国内線と国際線を分けて考えてはいない。

「LCCが生活の中にとけ込んでいるヨーロッパでは、ショートホール(短距離)、ロングホール(長距離)といった区分けがあるだけ。アジアもそうしていきたい。国内・海外という分け方なんて、需要が増えない中でやることですよ。LCCは片道での購入が基本なので、行きは成田からエアアジア・ジャパンで札幌に行き、向こうで旭川まで移動して帰りは別のエアラインで戻るといったオープンジョー(発着地と出発地が異なるルート)の利用も考えられる。近所のパチンコ屋のかわりにたまには本場のマカオのカジノに行くとか、香港のディズニーランドに遊びに行くといった需要も喚起したい」

アラカルトで旅行を組み立てたい人にこそLCCは向いている。LCCは人々の旅行の価値観を変える可能性もある。

※すべて雑誌掲載当時

(向井 渉=撮影)