「まじめで勤勉」が日本経済を停滞させている

日本人はまじめで勤勉です。この性格は経済の高度成長には間違いなく大きく寄与してきました。しかし、そこに問題が隠されている、ということです。つまり、「日本経済の高度成長を支えてきた、日本人が持つ職務に忠実な勤勉さこそが、今の停滞の主因になっている」というのが、約30年にわたって日本企業の変革の現場に身を置いてきた私がたどり着いた結論なのです。

では、この「職務に忠実な勤勉さ」とは、どのような中身なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

まだ記憶されている方も多いと思いますが、2017年2月から2018年3月にかけて、学校法人森友学園問題が日本中を騒がせました。中でも衆議院予算委員会等で、財務省の佐川宣寿のぶひさ理財局長(当時)が重ねた答弁は、私たちの記憶に何かおさまりの悪い感覚で残っています。

その答弁は、「交渉や面会の記録は速やかに破棄した」「電子データは短期間で自動的に消去されて、復元できないようなシステムになっている」などと、当時の政権を擁護する姿勢で終始一貫していました。しかし、佐川氏のそうした言動に対して、たいていの人は彼が実際にあったことをそのまま正直に言っているとは思っていないのではないでしょうか。

「このようにふるまうべき」という信念が見えた

ただ、ここで私が問題にしたいのは、佐川氏の言っていることが事実に即しているかどうか、ではなく、彼が取った行動が彼なりの「規範を守り抜く」という信念に基づいていたように見えた、という点です。

佐川氏の答弁する姿勢に関して言えば、多少苦しげではありましたが、余計な迷いは見えませんでした。もし本当に悪いと思っているのなら、首は垂れるものです。しかし、首を垂れることなく堂々としていた。つまり、佐川氏には、「国家公務員たるものこのようにふるまうべきだ」という彼なりの信念があったということです。

彼の心のうちは想像するしかありませんが、「ことを荒立てて属している組織に混乱を起こすことよりも、穏便に済ますことのほうが最終的には日本のため、日本人のためだ」と考えていたのかもしれません。

このときの佐川氏は、私が日本に停滞をもたらしていると考える「職務に忠実で勤勉な日本人」の象徴のような存在です。彼のことを、お上に仕える「現代の武士」と呼んでもよいのではないか、とも考えています。