横浜創英中学・高等学校は横浜市にある私立の中高一貫校だ。数年前まで、高校は「県立高校の併願校」という位置づけだったが、現在は半数が第一志望で入学している。中学の偏差値も上昇中だ。何が起きているのか。2020年から校長を務める、元麹町中学校校長の工藤勇一さんに、教育ジャーナリストの中曽根陽子さんが話を聞いた――。

「ロケット開発を手がける実業家」が特別授業

横浜創英中学・高等学校では2020年、元千代田区立麹町中学校校長の工藤勇一先生が校長に就任しました。

宿題、定期テスト、担任制など、「学校のあたり前」をやめて、公立中学校を生徒主体の学校に塗り替えた先生です。偏差値は就任前の2019年入試では男女ともに40~41であったのに対し(2019年入試1月版予想偏差値)、2023年4月の予想偏差値は男女ともに42~53に上昇しています(偏差値はすべて首都圏模試センター調べ)。

3年目に入った今、どんな教育が行われているのか、これからどんな学校になっていくのか、学校で取材をするとともに、工藤先生にお話を聞きました。

取材をした日は、中学1年生対象の外部講師による特別授業が行われていました。ゲストは、自社でロケット開発を手がける実業家、植松電機代表取締役の植松努さんです。

「『どうせ無理』をやめよう。思いは招くよ」という熱いメッセージと共に、夢をあきらめずに、自らが思い描き挑戦していくことの大切さを伝える授業がたっぷり2時間行われました。

ゲームも漫画も大好きで、先生からはダメな子と怒られてばかりいたという、植松さん自身の子供時代の話に、生徒たちは、もしかしたら、自分自身を重ねながら聞いていたのかもしれません。時に大笑いをしながら、2時間真剣に聞き入っていました。

植松努さんの特別授業の様子
画像提供=横浜創英中学・高等学校
植松努さんの特別授業の様子

科学的思考を重視した中高一貫コースを新設

この授業は、今年からスタートした、中学校のサイエンスコースのプログラムの一環です。サイエンスコースは、科学的思考を重視した6年間一貫コースで、設置した狙いは、実学的な探究を通して「科学的思考で社会に貢献する」人を育てるというもの。週に2時間「探究の時間」を設けて、グループで探究活動を行います。

サイエンスというと理系コースと思われるかもしれませんが、そうではありません。

自然科学・社会科学・人文科学すべての分野にわたる社会が抱える多様な課題を、生徒自身に発見させ、課題解決に向けた実践的な研究活動を通して、科学的思考力を養っていきます。

中1の最初のテーマ設定は、1学期をかけて教員と面談して行います。課題発見やテーマ設定を生徒たちだけで行うのは限界があるので、さまざまな分野の専門家から助言をもらうのです。