焦点となっているデータを観察する

先の問題に付した図表1は、47都道府県について10万人当たり美容院数(2018年度に報告された美容所の施設数2018年10月1日現在の推計人口で除したもの)を計算し、その上位と下位5都県ずつを抜き出したものです。

ここでは10都県のみ示しましたが、全ての数値が手に入った場合でも個々の数字を観察するときは最大と最小付近の少数に絞って観察するのが効率的でしょう。記事では秋田県が1位としかわかりませんでしたから、これだけでも考察の材料は大幅に増えています。

なお、上下少数を見るのが有効なのは、このように人間の目で各々の数字を観察する場合であって、実際にデータ分析を行う場合には上下のみ取り出して用いてはいけませんので、注意してください。自分でデータ分析を行う場合には、中間を含めて全体的にデータを眺めたほうがよいでしょう。

アンケート調査などを自分で入力してみると、事前の想定と異なる回答傾向を把握できることもあります。あくまでここでは、分析結果の批判的読解を目的としており、手早く傾向を把握するために上下の一部を確認しています。

さてまず、元の主張に従ってこの表の県の並びに意味を与えてみます。上位県は「見栄っ張り」で「恥を感じやすい」のですから、下位の都県は「気取らない」、「恥知らず」ということになるでしょうか。そこで表の上位下位には記事に合わせてそれぞれ「見栄っ張り?」、「恥知らず?」と記しておきました。

次に、相手の説のことはなるべく忘れて、この表の都道府県名を見てどのようなところか考えてみてください。上位と下位にどのような違いがあるでしょうか?

さて、どうだったでしょうか。やはり徳島県の住民は見栄っ張りで神奈川県や東京都の住民は恥知らずなんだと感じたでしょうか?

各都府県がどのようなところか何となくのイメージを持っている人ならば、図表1上位は農村部(田舎)、下位は都市部(都会)という印象を持ったと思います。ちなみに上位6位以下は高知、愛媛、宮崎、下位42位以上は兵庫、宮城、滋賀と続きます。

こうして焦点となっているデータを確認した時点で、10万人当たりの美容院数という数字が、見栄っ張り/恥知らずの「県民性」なるものを要因として生まれてきたものではなさそうなことが、より一層はっきりしてきたと思います。都市部ほど人口当たり美容院数が少なく、農村部ほど人口当たり美容院数が多くなっているだけで、県民の性格のようなものが滲み出た数値ではないだろうなと、何となく思えてきたと思います。