ロシアの状況は、フランスでも注目を集めている。軍事研究家のクリスティン・デュゴン氏は、フランス上院が出資する議会チャンネル『パブリック・セナート』に出演し、ロシアでは「多くの人々のあいだで、徴兵逃れの傾向やその試みがみられます」と指摘した。
シングルマザーと結婚する、教育機関に入学する、医師の診断書を得るなど、「あらゆる手段を複数並行して」使うことで、人々は兵役を回避しようと躍起になっているのだという。
こうした現状を受けデュゴン氏は、兵の頭数の不足により、プーチンの軍勢が縮小する可能性すらあると論じている。
無計画な戦場から逃亡する兵士たちも
兵士不足に追い打ちをかけるように、戦地から逃亡を図るロシア兵も相次ぐ。食糧の調達難などで生存環境が悪化し、兵士たちの戦闘意欲を削いでいる。軍事ニュースサイトの米『ソフレプ』は、給与目当てに兵役に登録したロシア側の契約軍人の例を報じた。
イワンと名乗るこの21歳の兵士は、月給3万1000ルーブル(約6万5000円)の報酬に惹かれて入隊を志願したという。2021年11月の入隊時点では、故郷の近くシベリア・ケメロヴォの街に配属され、毎日家に帰れるという説明を受けた。
ところが、契約から4カ月とたたずにプーチンがウクライナ侵攻に踏み切ったことで、急遽戦地へと送られる。彼を待っていたのは、食糧もろくに補給されず、疲れ切った夜も廃屋に寝泊まりするという厳しい生活だった。
イワンがソフレプ誌に語ったところによると、「食糧がないため、ウクライナ軍が残していったものを何であれ食べなければならなかった」という。この兵士の件とは別に、ロシア軍内で6年前の戦闘食が配給されているとの報道も出ている。
新兵動員は違法のはずだが…プーチンが「戦争」と呼ばないワケ
前線で続々と倒れるロシア軍を補うべく、多くの新兵が、非常に基本的な訓練を受けただけの状態で実戦に駆り出されている。これは、ロシアの国内法にさえ抵触する恐れがある。
ロシアの国内法は、入隊4カ月未満の兵を戦地に送ることを違法と定めている。ソフレプ誌は、プーチンが戦争でなく「特別軍事作戦」との呼称にこだわる理由のひとつに、違法との指摘をかわしたいねらいがあるとみる。
実質的な犯罪行為が軍全体に横行していることになるが、上官たちは軍部の非を認めるどころか、若い兵たちの逃亡を糾弾するばかりだ。ある部隊では兵士たちが契約の解除を申し出ると、現地にロシア連邦保安局(FSB)の捜査官が現れ、離反は違法行為であると脅したという。上官の命令に背いて契約を解除することは軍事犯罪であり、刑事告発も免れないとの脅迫だ。
しかし、逮捕承知で逃亡を図る兵が後を絶たない。「ウクライナ(の戦地)に戻るよりは、刑務所に入るほうがまだましだ」とこの兵士は語る。