こうして兵の流出が続いた結果、軍の活動維持さえ危うくなってきている。イギリスの王立防衛安全保障研究所で陸上戦を専門とするニック・レイノルズ研究員は、モスクワ・タイムズ紙に対し、「ロシア軍のモデルを念頭に置き、(兵力の)損失を考慮に入れた場合、彼らは限界に近い状態で活動しているといえます」との分析を示した。
3分の1の兵力を失い、かつての勢いを失ったロシア軍
イギリス国防省諜報部は、ロシア軍が投入兵力の3分の1を失った可能性があると分析している。同省は軍事評価のなかで、ウクライナ東部でのロシア側の軍事行動は「勢いを失っており」、いまでは侵攻が「予定よりも大幅に遅延している」との分析を示した。英ガーディアン紙が5月に報じた。
北大西洋条約機構(NATO)のミルチャ・ジョアナ事務次長も同じく、ロシアの攻勢の衰えを指摘する。ジョアナ氏は5月、加盟各国外相との非公式の会談に先立つスピーチのなかで、「ロシアの残忍な侵略は勢いを失いつつある」との見解を示した。氏はNATO加盟国による支援を念頭に、「ウクライナがこの戦争に勝利できることを確信している」とも明言している。
米CNNの記者がプーチンへのメッセージを求めると、ジョアナ氏は次のように応じた。「したがって我々がプーチン氏に送りたいメッセージは、彼らが第2次世界大戦後としては最も残忍かつ皮肉な戦争を仕掛けたのだということだ。おそらく彼は、ウクライナの人々の勇気と西側の政治的結束にただただ驚愕していることだろう」
忍び寄る戦線崩壊の足音
戦闘が予想外に長期化したことで、プーチンと軍上層部は国内からの批判にも対峙しなければならない厳しい状況に追い込まれた。本来ならば違法である入隊4カ月未満の若い兵士たちが戦地に送られ、その家族らが安否を気遣い眠れない夜を過ごしている。
高給に惹かれ、自らの意思で軍に関わった契約軍人に関しては、戦地での厳しい生活は織り込み済みだったとの指摘もあるだろう。しかし、侵攻前の2021年に契約を交わした兵士たちの胸中は複雑だ。祖国の防衛のために命を懸けるならばいざ知らず、「特別軍事作戦」と称する侵略戦争に寄せ集めの部隊で参戦させられ、敵軍の食べ残しを拾って命をつなぐ日々が続く。
プロパガンダにより侵攻を正当化してきたプーチン政権も、遠からず国民感情の悪化に向き合うときを迎えるだろう。囁かれるプーチンの健康状態の悪化を待つまでもなく、兵士の逃亡と欠員による戦線の崩壊で終わりを迎えるシナリオもあり得そうだ。